3人以上のエンジニアが、協力して1つのプログラムを完成させる「モブプログラミング(モブプロ)」をご存知だろうか?

モブプロでは、コードの実装内容を考える「ナビゲーター」の意見・指示の下で、コードを書く「ドライバー」がプログラミングを行う。そんなモブプロの様子をYouTubeで定期的に生配信している企業がある。エンジニア向けのプロフィール自動生成サービスや転職サービスを提供するLAPRASだ。

作業の効率化や開発チームのコミュニケーション促進、コードに対するチームメンバー間の認識共有など、本来は社内向けの取り組みであるモブプロを外部に発信する理由とは? LAPRASのスクラム開発チームのプロダクトオーナーである両角和軌氏と、マーケティング担当者の長廻悠人氏にモブプロ生配信のねらいを聞いた。

  • LAPRAS ソフトウェアエンジニア/DJ 両角和軌氏(左)、LAPRAS プロダクトマーケティングマネージャー 長廻悠人氏(右)

プロフィール
LAPRAS ソフトウェアエンジニア/DJ 両角和軌氏
エンジニアとして自社サービスの開発に従事。現在はスクラム開発チームのプロダクトオーナーとして、3カ月から半年の開発計画の策定と外部仕様の定義などを行っている。そのほか、開発チームのPRを担当しており、モブプロ生配信のコンテンツ企画に携わる
LAPRAS プロダクトマーケティングマネージャー 長廻悠人氏
ユーザーの利用状況の調査・分析のほか、SNS運用、オンラインイベントの開催などマーケティング施策全般を担当。モブプロ生配信では、配信プラットフォームの導入・管理や配信中のTwitter管理などに携わる

--なぜ、モブプロの生配信を始めたのですか?

長廻氏:新規ユーザーの獲得やサービスの認知度向上のための施策について、エンジニアチームと定期的にミーティングをしているのですが、そこで両角から提案があったのがきっかけです。

両角氏:いくつか類似の配信を見たことがあり、自分たちでもできるなら挑戦してみたいと思い提案しました。

最初に見たのは、2017年に話題になったGitLabの障害復旧の生配信です。当時、障害が起きて復旧の様子をYouTubeでリアルタイムに配信していたのですが、「こんなことをやる会社があるのか」と驚き、印象的でした。業務中の様子を配信しようなんて発想は思いつかないじゃないですか。

そして、2020年の夏にメルカリが「開発ライブ実況」をYouTubeで行ったのを知り、開発チームや長廻に声をかけ、複数回のミーティングを経て12月7日にスタートしました。

--モブプロ配信のねらいとは? また、効果は出ていますか?

両角氏:当社のイメージを変えたい、また開発チームの雰囲気を伝えたい、というねらいがありました。社外の方から見ると、当社はどちらかというと、固い、クール、ドライ、冷徹といった、近寄りがたいイメージを抱かれがちでした。

私自身も入社までそう感じていましたし、私が関わった採用面談で応募者の方から言われたこともあり、「モブプロでワイワイしている様子が見れたら、社内の雰囲気や開発チームの普段の様子が伝わるかな」と思いました。

長廻氏:モブプロ配信でサービスへの登録者が目に見えて増えた、といった大きな変化はありませんが、成果は着実に出てきています。この1年で視聴者は安定して増え、配信回数を重ねるごとにTwitterのハッシュタグ投稿のコメントももらえるようになってきています。バズっているほどじゃないけど、着実に見てもらえているのが現状だと思います。

モブプロ配信後のTwitterを観察すると、配信を見て当社に技術力のあるエンジニアがいることを知ってくださったり、当社が提供するサービスに登録してくれたりした方もいました。

採用面談でも、「モブプロの配信を見て、社内の雰囲気や関係性が知れたから安心して受けた」と言って応募してくれた方も現れており、モブプロ配信が当社に対するポジティブな印象を持ってもらうきっかけになり始めています。

  • 第2回の配信「4時間でオンメモリ全文検索エンジンを作る」の様子。「オンメモリでテキスト検索をするPythonのモジュール」を開発目標とし、制限時間内に完成させた

--普段の開発業務でもモブプロを行っているのですか?

両角氏:はい、開発チームの選択肢として自然に選択しています。毎朝、ミーティングでメンバーそれぞれの業務の進捗状況を共有していて、そこで、1人で担当して進捗が遅れていたり、全体のタスクから逆算して重い作業になっているタスクがあったりしたら、「じゃあ、空いている人でモブでやりましょうか」「それはモブが効きそうだね」といった会話をよくします。

ドライバーがコードを書いてみたら想定と違う動きをしたり、どう修正したらいいかわからなくなったりするのですが、その時にナビゲーターのメンバーが解決策や問題の原因を調べて、リアルタイムにレビューしたりアドバイスしたりしながら開発を進めます。

ただ、すべての開発にモブプロを使えるわけではなく、合うケースがあると考えます。

まずは、協力しないと課題解決が難しいケースです。例えば、難易度が高くてチームメンバーの誰も経験したことがない機能の開発や、納期が決まっていて「○月○日にこの機能を実装しないと計画全体のボトルネックになる」といった重要度の高い開発です。また、障害対応など慎重さが求められる対応の際には、ダブルチェックのつもりでモブプロを行います。

このほか、新入社員の教育や知識共有のケースでもモブプロを活用します。技術力のある先輩エンジニアがドライバーを担当し、新入社員にはプログラミングの様子を見てもらいながらコードや開発時のポイントを覚えてもらう。その後、今度は新入社員にドライバーをやってもらい、言われるがままにプログラムを書いてもらい、開発工程を覚えてもらうこともあります。

--一見すると開発効率が悪そうですけど、実際のところいかがですか?

両角氏:私も最初は、「1人がやるタスクを3人で担当するって無駄が多いんじゃないか?」と思っていました。でも、実際やってみると開発がスムーズに進むんです。

当社のモブプロでは、20分ぐらいでドライバーが交代するのですが、そうすると、「集中している誰かがコードを書いている」状態が続くので、結果的に開発そのものへの集中力が途切れないんです。

個人的にモブプロは、「みんなでゲームをしている」感じが近いと思います。コントローラーを持っているのは1人で、まわりが口を出しながらゲームを進めていく。ゲームをプレイしていた人が疲れても、今度は他の誰かがプレイするからゲームの攻略は進む、といったイメージです。

  • 「配信プラットフォームやSNSの管理を長廻に任せられるので、開発チームは配信内容に集中できる。マーケティングと開発、どちらか一方だけで始めていたら、モブプロ生配信はうまくいかなかったでしょう」(両角氏)

--生配信をするにあたって、気を付けたことはありますか?

長廻氏:社内のメンバーに「参加したい」と思ってもらえるような場づくりと、配信画面の見た目に気を使っています。

視聴者と配信者との間で盛り上がっている取り組みなのだと社内に示すため、配信中にSNSで反応があったらすぐに取り上げたり、フィードバックをしたりしますし、配信の進行も私自身楽しんでやっています。

配信にあたっては、StreamYardというライブ配信専用のサービスの有料プランを利用しており、配信中にリアルタイムのテロップ出しや配信画面のカスタマイズ、テレビ番組風の演出などを入れています。

両角氏:準備に手間をかけないようにしています。基本的にモブプロ生配信では、その配信回での目標を決めたら、配信時間にメンバーにアクセスしてもらってぶっつけ本番で話しながら、手を動かしながら配信を進めていきます。

チームに所属するエンジニアは個人ブログでの執筆など発信に慣れている方が多く、そうしたメンバーと以前からさまざまな発信の取り組みを行っているのですが、意外と長続きしませんでした。継続させるには、なるべく準備や手間をかけずに発信できる仕組みにする必要があるのかもしれないと思い、日々の業務を圧迫しないやり方を重視しています。

長廻氏:配信動画も本当にクオリティを上げたいなら編集を加えたほうがいいのかもしれませんが、他の業務の都合上、私もそれほど時間をかけられないため、生配信後のYouTubeへの動画アップロードでもよほどの機密情報でない限り編集せずに公開しています。

--初回の生配信から得た反省と、その後の改善点を教えてください

長廻氏:初回の配信「はじめてのGitHubActions」での反省点は、時間を決めず、ダラダラと配信をしていた点でした。現在では、制限時間とゴールが明確にされていて、出演者が時間に追い立てられつつがんばっている様子が見れる内容を目指しています。

バグの報告をしたときにGitHub上でチケットが作られるのですが、従来は「バグ」というタグを手動で行っていて漏れも多かったので、自動的に付ける仕組みを導入する様子を配信しました。

あらためて見返すと、1本45~50分ぐらいある動画で、初めて視聴した人からすると、何をやっているのかわかりにくかったので、第2回以降の配信ではタイトルも「社内を幸せにするChrome拡張を作る」「フロントエンジニアはクローラー開発者になれるのか?」などと成果物や目標を宣言するような内容に工夫しています。

  • 「こうした取り組みは社内メンバーの協力が欠かせず、出演者が飽きたり、『これに参加したくないな』と思われたりすると続かなくなります。視聴者だけでなく、社内の目も意識して配信をしています」(長廻氏)

--配信コンテンツの戦略はどのようなものでしょうか

両角氏:大きく分けて、3つのカテゴリーの内容を配信していこうと考えています。具体的には、「1.専門性のある人が選んだ、ある領域にまつわる新しい機能などを開発する」「2.専門性のある人に技術を教わる」「3.社内に詳しい人がいなくて、Googleで検索しても文献やブログなどで知見が出てこない領域を勉強する」です。

このほか、システム上組み込めていないけど、自社サービスで将来的に使う可能性のある機能や現状必要としている機能を社内で実装してみよう、といった内容も自社のPRという観点からやる意味があると考えます。

最初のうちはテーマを選ぶうえでの方針がないので、ブレスト(ブレインストーミング)をしてもメンバー各々の興味のある内容が提案されるので、テーマがバラバラでした。ただ、モブプロ生配信は開発組織のPRとしてやることなので、何かしらテーマを絞らなければならず、カテゴリーを定めることでテーマの方向性も揃うようになってきました。

開発チームのPRコンテンツは、内容の深さと更新の頻度で分類しています。内容が深いけど更新頻度は低い公式のテックブログ、内容は深くないけど毎週更新している公式YouTubeの「Tech News Talk」動画があり、モブプロ生配信やその他の動画はその中間に位置付けています。毎週、いずれかのコンテンツが更新されている状態になるように計画しています。

--今後の取り組みなどを教えてください

両角氏:新たな取り組みとしては、社外のエンジニアにモブプロ生配信に参加してもらうほか、他の企業の開発チームとコラボ配信をできたらいいなと考えています。現代のPRでは、発信し続けることが前提になってきていると思うので、内容のクオリティを維持しつつ、今と同じぐらいのペースで配信を続けていきたいです。

私自身、Twitterのリツイートなどでバズっているテックブログからそれまで知らなかった会社を知るなんてことがよくあるのですが、継続的に発信していなければ、そうした知ってもらう機会はおとずれないでしょう。

2021年10月に当社でもオウンドメディアを立ち上げました。モブプロ生配信をはじめとした動画やテックブログと併せて、社外の方に当社のリアルな姿をお伝えしていきたいです。