52以上の新規事業立ち上げに携わった守屋実氏と、ITエンジニア向けに転職・就職・学習サービスを提供するpaiza 代表の片山良平氏は11月17日、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)における組織・人材面の課題をテーマにしたメディア向け勉強会を開催した。
ミスミ(ミスミグループ本社)に入社後、新規事業の開発に携わったほか、大企業の企業内起業や独立起業、週末起業など52のプロジェクトに携わってきた守屋実氏は、新規事業の専門家としての目線で、DX成功における組織面のポイントについて解説した。
守屋氏は、「DXはデジタルを活用した新規事業立ち上げと捉えている。DXがうまくいかない要因は新規事業開発と同じく、本業での成功体験により社内で保身のための競争が起こっていることにある」と指摘した。
本業から外れる新規事業では意思なき起業がなされ、新しい挑戦には経験なき理屈から反発が起こるため、新規事業の立ち上げ同様、DXもうまくいかないという。そのため、DXにおいても新規事業の創出に特化した組織を設けて、意思を持ったリーダーの下に、起業(新規事業)のプロ、業界のプロがそろう体制を構築することがDXにおける組織面のポイントになる。業界のプロには業界動向や規制に精通したプロはもちろん、その業界にデジタルを導入するうえでの知見のある人物も含まれる。
また、DXに関連した事業を立ち上げるうえでの財務面のポイントとしては、スタートアップ企業の事業開発のように、まずは新規事業候補をたくさんスタートさせて、事業として有望な新規事業候補に予算を集中的に投下する投資行動が重要だという。
「特に大企業では、スタートの時点で必ず成功させなければいけない1つの事業を立ち上げがちだが、どの事業がうまくいくかわからないのだから、プロジェクトは細かくたくさんスタートするべきだ」(守屋氏)
企業でDXを成功させるうえでは、昨今はIT人材の確保、なかでもITエンジニアの採用が重視されている。paiza 代表取締役社長の片山良平氏は、同社のプラットフォームの利用企業の動向から見えてきたITエンジニア採用の傾向や失敗、成功要因を紹介した。
従来、非IT企業においては、社内のITのニーズを取りまとめてシステムインテグレーターに依頼するコンサルタントの採用が多かったが、最近はシステム開発ができる人材の採用が増加しているという。
「当社のプラットフォームの求人掲載数を見ても、2018年あたりから非IT企業によるITエンジニア募集求人が増加している。当社が事業をスタートした2013年は全募集求人の2%に過ぎなかったが、2021年は25%まで増えており、非IT企業でも内製化のニーズが高まっていると判断している」と片山氏。
非IT企業がITエンジニア採用で失敗しやすい理由としては、「採用側、経営陣のITエンジニアへの理解度の低さ」「制度面のギャップ」「レガシーな社内文化」の3つが挙げられた。
職種、開発工程に対する理解不足から採用のミスマッチが起こったり、地方採用や工場周辺地域での採用などに企業側がこだわったために採用できなかったりするそうだ。また、年功序列・終身雇用を当てはめて、ITエンジニア特有の年収レンジ、ジョブ型、能力給などに対応できないケースも多いという。
出社時間、昼休み、挨拶、服装、副業、リモートワークなど働き方全般の意識の違いや、意思決定のスピードの遅さ、メールやFAX、印鑑などのレガシーなツールを使い続けることの非効率さなども、ITエンジニア採用において影響するという。
「給与面について、『ITエンジニア職だけ特別にすると社内で反発が起こるので変えられない』と言う採用担当者は少なくない。だが、結局採用につなげられないのであれば、長期的には競合に負けてしまう要因になる」(片山氏)
ITエンジニア採用を成功させている非IT企業の事例では、北國銀行とパーソルキャリアが紹介された。北國銀行では採用担当者がスタートアップに出向してIT業界の文化、働き方、制度を体感したうえで、本社のある石川県ではなく東京で子会社を設立して採用したことで、銀行と異なる給与・働き方を導入できた。パーソルキャリアでは、新卒・中途を問わずにスキルややれることを中心に評価する、ITエンジニア向けの絶対評価制度を導入している。
また、非IT企業のITエンジニア採用において、企業には非IT職のリテラシー向上のためのリスキリングが必要だという。加えて、今後は採用できたITエンジニアを自社に定着させるために、スキルや経験値の評価体制とキャリアパスを用意することも重要になるという。
片山氏は、「専門に特化する、技術のマネジメントに携わる、ビジネスサイドに転向するなどキャリア志向に合った制度を整える必要がある。また、企画とエンジニアが一体となったチームのほうが素早く開発に着手できるうえ、ビジネス感度の高いITエンジニアが育つので、チーム体制も考慮して採用活動を行うことが望ましい」と語った。