マネーツリーは11月10日、オルタナティブデータの活用を事業化させる「データリサーチ部門」の新設を発表した。同日には記者説明会が開催され、同部門で進める個人にひもづいた金融行動データを活用する事業が紹介された。

オルタナティブデータは、金融機関や機関投資家が資産運用の際に活用してきた企業財務情報や統計・速報値などのトラディショナルデータに対して、さまざまな業界・分野から得られるデータ全般を指す。例えば、位置情報や決済情報、POSデータ、クレジットカードデータのほか、気象情報や衛星写真なども含まれる。

現在、オルタナティブデータは投資判断をより適切に実行するためのデータセットの1つとされているが、複数のデータを組み合わせることで多様な領域で目的に応じた分析が可能なため、今後はより広範囲での活用の可能性が期待されている。

  • トラディショナルデータとオルタナティブデータ、出所:記者説明会の講演資料より抜粋

マネーツリーは資産管理サービス「Moneytree」と同サービスと外部の金融サービス(会計、クレジットカード、投資など)を連携する「MoneytreeID」のほか、法人向けに金融データプラットフォームサービス「MoneytreeLINK」を提供しており、今後は自社のサービスから得られるデータをオルタナティブデータとして提供する事業を開始する。

具体的には、同社のサービスとひもづく利用者の金融データを、個人を特定できないように匿名化処理を施すことで、プライバシーの守られた非個人情報としてあつかえる統計データをオルタナティブデータとして外部へ提供する。

マネーツリーが提供できるデータセットとしては、消費支出、業界ランキングのほか、個人の支出におけるあるカテゴリでの特定のブランド・メーカー・製品の割合を示すSWO(シェア・オブ・ウォレット、財布内シェア)が挙げられた。

マネーツリー ビジネスディベロップメント ディレクターの山口賢造氏は、「当社が提供するデータと公的データを掛け合わせることで、消費者行動をデータ分析することが可能になる。例えば、消費者の支出パターンの隠れた洞察を抽出したり、潜在化しているニーズを見つけたりと、新規事業の立案、投資調査、学術研究、公共政策の策定などに貢献できると考える」と述べた。

  • マネーツリー ビジネスディベロップメント ディレクター 山口賢造氏

同社は国内でのオルタナティブデータの活用推進に向けて、11月10日にオルタナティブデータ推進協議会にも加盟した。

記者説明会では、マネーツリーが提供するオルタナティブデータの活用例として、個人の家計収支調査を行う「RICHプロジェクト」が紹介された。

同プロジェクトでは、現在、調査の参加への同意を得られた個人の金融データをMoneytreeLINKと連携したPFM(個人資産管理)アプリからAPIで自動取得し、世帯属性の定期的な調査データを付加するなど、オルタナティブデータ用いて独自の調査システムを構築している。

  • RICHプロジェクトによるデータ取得のイメージ、出所:記者説明会の講演資料より抜粋

同プロジェクトの代表を務める京都大学経済研究所 教授の宇南山 卓氏は、同プロジェクトで得られるオルタナティブデータのメリットについて、「データは自動で収集されているため正確で、同一個人を長期的に追跡可能だ。家計収支のみならず資産も観察可能で、月次だけでなく日次でデータを観察できるうえ、必要な場合には被験者とのコミュニケーションが可能な点が特徴だ」と語った。

  • 京都大学経済研究所 教授 宇南山卓氏

家計収支には従来、主として政府統計(トラディショナルデータ)が活用されてきた。だが、調査にあたっては家計簿などを使用した手動記録が用いられるため出入金の記録の正確性に欠けるケースがあり、高額商品への支出が十分に把握されず、同一家計を長期追跡することが難しいといった課題が指摘されていた。一方で、PFMアプリを通じてビッグデータを活用する先行研究では、出入金の情報は正確ながらアプリ利用者の実態が不明であるという課題があった。

宇南山氏は、「現状、同プロジェクトにおいてもランダムサンプリングがされておらず、サンプル数が多くないという課題はあるが、収入・支出、資産を把握する分析で公的統計と比べても大きく乖離せず、実態を把握できているため、信頼性は高いと言える。オルタナティブデータの活用で、実験が実施できなかった経済学の分野でも実験ができるようになるため、家計収支分析に新たなエビデンスを加えることにつながるだろう」と期待を込めた。

マネーツリーの山口氏によれば、オルタナティブデータの市場規模は2020年に約17億米ドルに達し、2021年から2027年にかけて58.3%の成長を遂げ、市場での総売上高は約424億米ドルに達すると予想されているという。