名古屋大学(名大)は8月30日、1人で食事をするときは、テレビなどで誰かが話しているのを聞きながらの方が、話し声がないときよりもおいしく感じられることを明らかにしたと発表した。

同成果は、名大大学院 情報学研究科の川合伸幸教授、同・郭茁根大学院生、同・中田龍三郎特任講師らの研究チームによるもの。詳細は、飲食に関する文化的、社会的、心理的、感覚的、生理学的影響を扱う学術誌「Appetite」に掲載された。

1人で食事を行う、いわゆる孤食が社会的な問題となっている。特に高齢者の孤食傾向は年々増加しているといわれており、2018年に農林水産省が実施した調査によれば、週の4~5日は1人で食べると回答した人は15%に上り、中でも70歳以上の女性は29%だったという。

人は社会性の生き物であり、孤独は精神的によい影響を与えない。特に高齢者に関しては、その生活の質は食事の楽しさと密接に関わるとの報告や、高齢者の高頻度の孤食は鬱との関連が指摘されるといった報告など、これまでの研究で孤食は避けるべきであると考えられるようになってきたとされるが、その問題を解決するのは容易ではないと考えられている。

一方で、以前から1人で食べるより他者と食事する方が、より多く食べるという「食の社会的促進」が知られており、コロナ禍でのオンライン会食などが話題になったほか、孤食をする人の多くが、テレビを見ながら食事をしているとされるが、そうした行為がどれだけおいしさにつながるのかは不明であったという。

今回の研究は、そうした孤食に関する研究の一環として行われたもので、大学生を対象に、机の上に映像が流れるモニターが設置された状態で90秒間ポップコーンを好きなだけ食べてもらうという実験を主体として実施されたという。

具体的には、モニターにモノだけが映っている映像と、モノと人が映っている映像の2種類の音声あり/なしの合計4パターンが1回の食事に1パターンを流し、それぞれの反応を調査した。

  • 孤食

    1つ目の実験の映像。(A)と(B)はどちらも1人が映っている映像だが、実験参加者の半数には(A)が音声ありの映像として流され、残りの半数は(B)が音声ありの映像として流された。(C/D)はものだけの映像だが、ものの内容は変えずに音声あり/なしだけが切り替えられた。音声の内容は同じで、最近の天気が題材である (出所:名大プレスリリースPDF)

その結果、人が映っているかどうかに関わらず、音声ありの映像のときによりおいしく感じ、摂食量が増えることが判明したという。

  • 孤食

    映像の内容(人かものか)および音声ありかなしかの影響を調べた1つ目の実験の結果。「single person」は人とものが映っている映像、「no person」はものだけが映っている映像。グレーの棒は音声ありの映像の、白抜きの棒は音声なしの映像それぞれの得点が示されたものである。映像の種類に関わらず、音声があるときにおいしさの得点や摂食量が高い。棒グラフ上の縦棒は、標準誤差(ばらつきの指標の1つ)である。(A)ポップコーンのおいしさが示されている。(B)皿に盛られたポップコーンのうち、どれぐらい食べたかの割合が示されている (出所:名大プレスリリースPDF)

また、モニターに映っている人数を増やした実験も実施したが、前の実験と同じ結果となることも確認されたという。

  • 孤食

    映っている人数の影響が調べられた2つ目の実験の映像。映像はこの2種類とそれぞれの音声あり/なしが用意され、合計4種類。1種類につき90秒間流され、音声ありでは1人の場合も4人の場合も最近の天気について語った(4人は会話が行われた)。(A)1人が映っている映像。(B)4人が映っている映像 (出所:名大プレスリリースPDF)

  • 孤食

    映っている人数を増やした2つ目の実験の結果。「Single」は1人が映っている映像、「Group」は4人が映っている映像を意味する。グレーの棒は音声ありの映像の、白抜きの棒は音声なしの映像の得点が示されている。映像の種類に関わらず、音声があるときにおいしさの得点や摂食量が高いのは1つ目の実験結果と同じ。(A)と(B)は1つ目の実験と同じで、(A)はポップコーンのおいしさが、(B)は皿に盛られたポップコーンのうち、どれぐらい食べたかの割合が示されている (出所:名大プレスリリースPDF)

さらに、映像の音声を合成音声に変化させても、おいしさや摂食量に違いがないことも確認されたという。

  • 孤食

    音声を合成音声にした3つ目の実験の結果。「single person」は人とものが映っている映像、「no person」はものだけが映っている映像を意味する。グレーの棒は合成音声が提示された映像の、白抜きの棒は音声なしの映像の得点が示されている。どの条件でも、おいしさの得点や摂食量に有意な差はない。(A)と(B)の内容はこれまでの実験と同じ。(A)はポップコーンのおいしさが、(B)は皿に盛られたポップコーンのうち、どれぐらい食べたかの割合が示されている (出所:名大プレスリリースPDF)

これらの結果について研究チームでは、人の「音声」が聞こえることが、1人の食事をおいしくすることに重要であることが示されたとするほか、今回の研究成果について、会食が制限される状況下で、どのようにすれば1人の食事の質(おいしさ)を高められるかを示したものだとしている。また、今後については、映像を流さない音声だけのオンライン会食の状況や、日常的に孤食をしている人でも同じ効果が得られるかなどを検討する研究が想定されるとしている。