2020年にビジネス環境が劇的に変化したことにより、多くの企業が、緊急に優先するべき事項として、IT投資への取り組みを再評価しています。新型コロナウイルス感染症によるパンデミックを機に、企業の多くがクラウドへの移行を加速させ、あらゆる事業においてDX(デジタルトランスフォーメーション)に注力しています。

パンデミック以前は、多くの企業がマルチクラウド戦略を立てており、ワークロードはオンプレミスとパブリック・クラウドに分かれていました。実際、ほとんどのお客様がワークロードを主要なパブリック・クラウドの1つか2つ、場合によっては3つのクラウド上で動かしています。またローカルのサービス・プロバイダーという優れたオプションも利用しています。

IDC Japanの調査によると、「テレワークの導入」「デジタル・ビジネスの強化」などの喫緊の業務課題を解決するために、パブリック・クラウド・サービスを活用する企業が増加しています。

ただし、企業がクラウドの使用量をスケールアップまたはスケールダウンする前に考慮すべき重要な事項があります。それらを以下に紹介しましょう。

セキュリティ対策としてのストレージの機能

先行きが不透明な時代に事業継続性を重視するのは、企業として当然のことです。サイバーセキュリティに対する意識は向上し、世界的にもあらゆる行動がとられています。現在、企業はセキュリティ・ポリシー、技術、運用、エスカレーション対応、リカバリ、予防のあらゆる側面を常に考案し、見直す必要に迫られています。

ランサムウェア対策のレスポンス・リカバリには、ストレージ分野も大きく関わるようになりました。事業継続の手法やプロセスに、「災害復旧(ディザスタ・リカバリ)」を念頭に置いて取り組む企業が増えているため、データ保護を含むストレージをシステム設計に取り入れたいという要望が多く聞かれるようになっています。

事業のインフラストラクチャを決定する際、企業は新たなサイバーセキュリティとデータ保護のベストプラクティスに目を向け、組み込み機能を備えた製品やサービスの購入を検討する必要があります。最新のストレージには、スナップショット、クローン作成、保存時のディープ・データの暗号化、レプリケーション機能などが搭載されており、データ保護に最適です。

あらゆる規模の組織が24時間365日の運用に移行するのに伴い、高可用性と安全性を兼ね備えたストレージの必要性がますます高まっています。何十年もの間、ベンダーは事業継続と災害復旧を提供するソリューションを市場に投入してきましたが、目標復旧時間(RTO)と目標復旧時点(RPO)を達成することは至難の業です。幸いにも、パブリック・クラウド・プロバイダーのほか、セキュリティ、保護、バックアップ、およびリカバリのベンダーも、今や堅牢で実行可能なオプションを提供しています。つまり、企業に十分な選択肢があるということです。

長期的な価値 - 隠れた移行、テスト、運用のコスト

クラウドの採用において払拭すべき考えの一つは、「クラウドは安価」という思い込みです。半導体集積回路が1年から2年で2倍になるというムーアの法則に基づけば、同等または低価格で購入するほとんどの技術から毎年、2倍の性能と能力を享受できることになります。これは確かにストレージの世界に当てはまります。NAND市場に関わる人なら誰でも、「同じ価格で2倍の容量を製品化する時間」が部品メーカーを決定し、利益に大きく関係すると理解しています。

この曲線がどれほど急で、2年から5年の間にテクノロジーが劇的に改善されるかを考えると、企業は製品を購入するのではなく、むしろサービスとしてその製品を購入するほうが賢明な判断となりえます。確かに、昨今の製品は本質的に「ソフトウェア定義」であり、ソフトウェアのサブスクリプション価値と部品コストに重点が置かれています。

企業が製品のハードウェア仕様を少なくし、ソフトウェア/オペレーティング・プラットフォームの寿命にもっと目を向けるべきであるというのは理にかなっています。

ベンダーが新しい企業を買収し、買収した技術を再ブランド化し、既存の顧客に対して、通常は下取りまたは更新のインセンティブと信頼関係によってこれらの新しいプラットフォームに移行するよう奨励することが一般的になっています。この場合長期的にみると、多くの隠れた移行、回帰テスト、運用コストが発生し、お客様の負担になります。

総所有コスト

ITインフラストラクチャは、従来の設備投資 (CapEx)、運用費 (OpEx)、ホスト型プライベート・クラウド、サービス・プロバイダー、パブリック・クラウド・ユーティリティなどのさまざまな方法で調達でき、オプションを簡素化することもできます。

そこで、組織に適した投資を選択することが重要になります。どのくらいの柔軟性が必要であり、プレミアムの価値があるのか。自社の現金持高と信用力は、資産を所有または所有しない場合のどちらに適しているのか、減価償却スケジュールの恩恵を受けているか。オプションを2つ組み合わせることは可能か。最小のコストでオプション間を移動することはできるか。ベンダー・ロックインになっていないか……さまざまな点を検討する必要があります。

この困難な経済環境下では、コストとリスクの削減がますます重要になってきています。企業は、シンプルで信頼性が高く、将来の変化に最大限の柔軟性を提供するインフラ環境を必要としています。調査会社MM総研の調査によると、2024年にはパブリック・クラウドの市場規模が約2.4兆円に達すると予測されています。コロナ禍の働き方の変化などに伴うSaaSへの需要の高まりが、要因の1つとのことです。

  • 新規システムの構成方針。パブリッククラウドを利用する意向の企業が最も多い 資料:MM総研

資産を購入する、サービスを調達する、もしくはクラウドへワークロードを移行する、いずれの場合であっても、データが組織の最も重要な資産の1つであることに違いはありません。データこそ新しい通貨であり、データセンター、サービス・プロバイダーのホスト環境、またはパブリック・クラウドのいずれかに安全かつ確実に保管できれば、組織は最新のデータ・エクスペリエンスを通して、新しい経済環境においても成長していくことができます。

著者プロフィール

田中良幸

ピュア・ストレージ・ジャパン株式会社 代表取締役社長

2017年2月にピュア・ストレージ・ジャパンの代表取締役社長に就任し、日本のセールス、マーケティング、サービス全ての責任を担っている。 ピュア・ストレージ以前は、日本のエンタープライズIT業界で長年の経験を積んでおり、ジェネシス、GXS、FileNet、Calico Commerce、TIBCOなどのグローバルなエンタープライズソリューション企業の日本法人社長を歴任し、多岐にわたるリーダーシップと戦略的マネジメントを実施してきた。ピュア・ストレージの日本代表就任を契機に、これらの経験をもって日本における継続的な企業成長と自社製品の市場シェア拡大に貢献していくことを目指している。