日本オラクルと住環境計画研究所は6月29日、日本の二酸化炭素(CO2)削減目標を達成するための環境省の取り組み「低炭素型の行動変容を促す情報発信(ナッジ)等による家庭等の自発的対策推進事業」の委託を受け、2017年度から2020年度まで実施した実証事業の結果を発表した。
同実証では、北海道ガス、東北電力、北陸電力、関西電力、沖縄電力の5社の供給エリア約30万世帯を対象に、米オラクルの家庭顧客向けエネルギー効率化ソリューション「Oracle Utilities Opower Energy Efficiency Cloud Service」に、実証用のキャラクター「そらたん」などを活用し、家庭ごとにパーソナライズされたエネルギー使用情報やアドバイスからなる省エネレポートを提供した。
全国から5社のエネルギー事業者が協力し、ナッジの活用を4年間にわたり30万世帯もの世帯に、大規模に実証を行ったことは、日本初となる。
ここで気になるのが、「ナッジ」という言葉ではないだろうか。 ナッジ(nudge) は、「そっと後押しする」ことを意味する英単語で、行動経済学等の理論を活用し、社会・環境・自身にとってより良い行動を促すことを指す。
国内では、2017年に環境省が事務局を務める形で日本版ナッジ・ユニットが発足し、環境省ナッジ事業が開始した。環境省ナッジ戦略企画官の池本忠弘氏によると、ナッジなどの行動科学の知見(Behavioral Insights)と先進技術(Tech)の融合(BI-Tech:バイテック)により、IoTでビッグデータを収集し、AIで解析してパーソナライズしたフィードバックを実現することを狙い、2019年以降、成長戦略や統合イノベーション戦略などに「BI-Tech」を盛り込み、政府一丸となって取り組むことにしているという。
池本氏は、平均2%の省エネ・省CO2効果を実証し、事業期間中に多くのCO2排出(4.7万トン)を削減したオラクルのナッジ事業について、「サプライズな結果」と評価していた。
実証事業については、Opower 日本代表の小林浩人氏が説明を行った。同氏は、ネットゼロの実現に向けては、「クリーンエネルギーへの転換」「エネルギー効率化」「需要の柔軟性」「有益な電化推進」が柱となるが、「クリーンエネルギーへの転換」以外の3つの柱は顧客の行動変容がカギになるとして、同社はナッジを活用してこの3つの柱の推進に取り組んでいると説明した。
オラクルの取り組みにおいて、特徴といえるのが、AIと行動科学を活用して、顧客の行動変容につながるパーソナライズなインサイトを生成して、レポートとして提供している点だ。
レポートはスタンダード版、日本版、スマートメーター版、季節版(夏と冬)、デュアル(電気、ガス)版など、さまざまな形式で提供され、日本版には、日本のキャラクター文化を鑑み、親しみを持ってもらうべく、「そらたん」というキャラクターが活用されている。
オラクルと共同で実証を実施した住環境計画研究所 取締役 研究所長 鶴崎敬大氏は、今回のホームエネルギーレポートの特徴として、以下を挙げていた。
- 平均2%の省エネ効果でも、エネルギー事業者の既存の顧客接点を通じて多くの世帯に展開することができるため、費用効果が高い形でCO2削減を達成できる
- 機器を導入する必要がないので、早く実装できる
- レポート送付は習慣や行動だけではなく、LED照明など省エネルギーに役立つ機器購入にもつながる可能性がある
- CO2削減だけではなく、エネルギー事業者のイメージと契約継続意向が向上する
日本オラクル 執行役社長 三澤智光氏は、同社のサステナビリティな経営に対する取り組みについて、以下のように語っていた。
「われわれは、世界基準より一足先に、2025年までに全世界のオペレーションを100%再生可能エネルギーで行うことを目指しいる。現時点で、Oracle Cloudを運営している欧州の全リージョンが100%再生可能エネルギーを既に利用している。お客様に対しても、Oracle Cloudを活用してサステナビリティを支援している。Oracle Cloudを利用することで、低電力のITで自社のインフラを低電力のITでまかなうことになり、エネルギー消費量を削減できる」