迫り来る気候危機への対策が急がれる今、企業はもはや環境への影響を無視することはできません。経済的機会と地球に対する私たちの責任とのバランスを取るには、サステナビリティ(持続可能性)とビジネスの成長を密接に関連づけて考える必要があります。

日本も、再生可能エネルギー、電気自動車、水素社会実現に向けた取り組みなど、進むべき道への一歩を踏み出しています。しかし、新型コロナウイルスによるパンデミックの影響により、世界はかつてないスピードでデジタル化を進めています。昨今のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支えているのは、エネルギーを大量に消費するデータセンターの需要で、これは、今後数年間で確実に増加します。

膨張するデータとともに拡大するデータセンター利用

新型コロナウイルスの感染拡大により、組織のDXが加速したといわれています。また、テレワークの推進によりトラフィックは増加する一方です。ソーシャルメディアやモバイル・バンキング、ストリーミング、eコマースといったトレンドは、引き続き拡大するとみられます。さらに日本政府は、今年9月に「デジタル庁」を新設し、官民のデジタル化を推進していくとしています。こうした動きにより、データセンターの利用は急速に増大しており、企業や組織の業務遂行におけるデータセンターの役割は、さらに重要性を増しています。

IDC Japanの調査によると、2020年末時点の国内事業者データセンター延床面積の合計は245万7,600平方メートルで、2025年には339万8,000平方メートルになると予測し、年6.7%で増加します。また、2021年から2025年までの期間が、事業者データセンターの新設ラッシュになると予測しています。これは、クラウドサービス事業者が国内のデータセンター・キャパシティを急ピッチで拡張していることを受けて、大規模データセンターの建設ブームが続いているためです。こうした動きにより、消費電力の急激な増加が懸念されます。

活況が続くデジタル商品と関連サービスは、5G、ブロックチェーン、機械学習、IoTなどの新しいテクノロジーの採用と相まって、データセンター・サービスの需要を増加させ、エネルギーとの関係をさらに複雑にする一方です。例えば、潜在的に変革をもたらす価値はともかくとして、単一の機械学習モデルをトレーニングするために必要なエネルギーは、平均的なアメリカ車の生涯排出量のほぼ5倍の二酸化炭素を排出する可能性があります。

パリ協定に基づく排出目標を達成するために、企業はDXへの新しいグリーンパスを計画する必要があります。これは、データに対する需要の高まりをサポートするだけでなく、人と環境のQOL(Quality of Life)を守るものでもあります。

そこで、組織がどのように、サステナビリティを実現しながらデータ・インフラストラクチャを構築すべきなのか、3つのアプローチをご紹介します。

エネルギーによって輝く未来のための土台を築く

多くの企業がサステナビリティの実現に向けて取り組み始めたのは、低炭素電力への動きがきっかけです。日本国内のデータセンターの消費電力は、日本の年間消費電力の1%ほどといわれており、データセンター・インフラストラクチャを必ずしもオーバーホールすることなく、再生可能エネルギーに切り替えることは、比較的始めやすいといえます。GAFAMなどの主要なプレイヤーは切り替えを開始しており、特にGoogleは2017年以降、年間消費電力を100%再生可能エネルギーで賄っていることを公表しています。

日本政府は2020年10月、「2050年までにカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」旨の宣言を行い、それを受けた「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」においてもデータセンターの省エネ化・再エネ化を大きく取り上げており、注目を集めています。データセンターについては、2030年までにすべての新設データセンターの30%の省エネ化、データセンターの使用電力の一部の再エネ化の義務づけを検討し、2040年の半導体・情報通信産業のカーボンニュートラル実現を目指すとしています。

  • 半導体・情報通信産業の成長戦略「工程表」 (グリーン by デジタル)資料:「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」

  • 半導体・情報通信産業の成長戦略「工程表」 (グリーン of デジタル)資料:「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」

ただし、よりクリーンで低炭素の電力を探すことは最初のステップに過ぎず、エネルギー消費を削減および最適化できる、よりエネルギー効率の高いソリューションの採用によって補完する必要があります。多くの規制当局が注目している重要な指標は、データセンターの電力使用効率(PUE)です。これは、データセンターが消費する総電力と、実際のIT機器が消費する電力量の比率によって計算されるエネルギー効率の重要な指標です。アジアでは、シンガポールや、北京、上海、深センなどの中国のいくつかの都市が、データセンターの拡大を回避するために、厳格なPUE上限に準拠する施設の開発のみを許可してデータセンターの成長を制限し始めています。

この課題に取り組むために、データ・インフラストラクチャの所有者はまず、冷却効率に着目します。冷却に必要な電力は、最新設備ではデータセンターの消費電力の3%程度と比較的高効率ですが、より高い温度で実行できる、またはより低い冷却要件を持つ機器に切り替えるだけで、長期的には、より安全で経済的です。フラッシュ・ストレージやリチウムイオン電池は、エネルギー効率と信頼性の点で優れており、すぐにほとんどの最新のデータセンター環境で主力になる可能性があります。