資生堂は、6月16日に第14回「資生堂 女性研究者サイエンスグラント」の受賞者10人を発表し、6月24日にオンラインで授賞式を開催した。
同グラントは資生堂の「次世代の指導的役割を担う女性研究者を支援することが科学技術の発展につながる」という考えのもと2007年に設立された研究助成金制度だ。
化粧品関連領域にとどまらない幅広い研究分野を対象としており、応募には年齢制限がなく、研究を推進する目的であれば女性のライフイベント(出産や育児)のサポートなどの目的に幅広く使用出できるといった特色がある。
過去の受賞者は受賞後にキャリアアップを果たしたり、自らの研究室を設けるなど、多くの研究者が継続して研究活動を行っているという。
今回は119人の応募があり、以下10人の研究者が選出された。
東京大学医学部付属病院放射線科の雨宮史織 助教・特任講師
研究分野:fMRIネットワーク動態解析法開発と臨床応用
(神経細胞集団がネットワークを形成し、脳として働く仕組みの研究)君が淵学園崇城大学工学部ナノサイエンス学科の櫻木美菜 准教授
研究分野:深共融解溶媒に分散したトランスファーソームの構造特性と経皮デリバリーへの応用
(柔軟に変形できるナノカプセルの形状と皮膚浸透過程の観察)九州大学応用力学研究所の佐藤可織 助教
研究分野:雲粒子の氷・水質量比の全球3次元分布の解明
(地球観測衛星から雲の相変化の謎に迫る)東京大学生産技術研究所の杉原加織 講師
研究分野:抗菌ペプチド「ダブル・コオペラティブ効果」を利用した新抗菌薬の開発
(二つのペプチドを混ぜることでスーパーパワーを発揮する現象「コオペラティブ効果」の仕組みを理解することで感染症に対する新薬の開発を目指す)東北大学多元物質科学研究所マテリアル・計測ハイブリッド研究センターのDAO Thi Ngoc Anh 助教
研究分野:持続的で制御可能な薬物放出を目的とするコロイドナノ薬剤のシルクタンパク質のゲル状マトリックスへの固定化
(通常は布地作りに用いるシルクタンパク質を、本研究では薬剤ナノ粒子を含むゲル状フィルムとして生成させ、癌部位で癌の成長を抑制する)北海道大学遺伝子病制御研究所発生生理学分野の西村有香子 助教
研究分野:細胞運動メカノセンシングにおける微小管情報伝達機構
(細胞が周囲の環境状態を知り行動するメカニズムを探る)東京大学定量生命科学研究所クロマチン構造機能研究分野の野澤佳世 助教
研究分野:ゲノム折り畳み構造のクライオ電子顕微鏡観察スキームの開発
(生物の設計図が書かれたゲノムDNAを細胞から取り出して、そのまま形を観察する方法を開発する)北海道大学大学院歯学研究院口腔病態学分野血管生物分子病理学教室の間石奈湖 助教
研究分野:腫瘍血管制御による新しいがんの診断・治療法の開発
(腫瘍血管の病態解明によりがんの再発・転移を制御する新しい診断・治療法を開発する)神戸大学大学院理学研究科生物学専攻の松花沙織 助教
研究分野:体色をつくる色素細胞の分化決定機構の解明-体色が相手の行動に与える効果の理解に向けて-
(遺伝子改変により新たな色や模様をもつ魚をつくり出します)東京大学大学院医学系研究科分子生物学分野の吉井紗織 助教
研究分野:出芽酵母を用いたミトコンドリアの若返りメカニズムの解析
(出芽酵母において母細胞から娘細胞が生まれるとき、娘細胞のミトコンドリアが若返ります)
オンライン授賞式では、周囲への感謝や研究への熱意が見られるコメントが多く寄せられた。
受賞者のひとりである、東京大学医学部付属病院放射線科の雨宮史織 助教・特任講師は研究の協力者や同僚、周囲の研究者への感謝を述べつつ 「大学病院で医師として、また教員として診療、研究、教育に携わっており、行っている研究は診療の中で生じた疑問を解決する目的で始めている。 今回採択された研究もそうした経緯から行っている。内容は地味だが、大変おもしろいもので、10年近く週末や、診療外の時間を利用して研究を行っている。 診療後に研究を行うというのは少し大変なように聞こえるかもしれないが、診療に加えて好きな研究をさせてもらえるというのは本当に恵まれていることだと思っている。 自分がどこまで研究を続けていけるのか小さな不安がいつも頭の片隅にあるが、そのような中でグラントを頂けるというのはこの上ない励みになる」とした。
同グラントの審査委員長を務める資生堂エグゼクティブオフィサー/チーフクオリティーオフィサー/チーフテクノロジーオフィサーの吉田克典氏は「日本では、女性研究者の割合も少しずつ増えてきており、16.9%となっている。しかし、アメリカは34%、アイスランドは46%ということで、このサイエンスグラントをまだまだ続けていかなくてはならないと思っている」と述べた。