本田技研工業(ホンダ)は6月11日、同社の新事業創出プログラム「IGNITION(イグニッション)」発のベンチャー企業第1号となる「Ashirase(アシラセ)」の設立を発表する記者会見をオンラインで開催した。

IGNITIONは、2017年からスタートしたホンダの正規従業員は誰でも応募可能な新事業創出プログラム。

アイデアに対して審査を行い、最終審査を通過したものは、社内で事業化、あるいはベンチャーとして事業化まで行うというものだ。

Ashiraseの代表取締役を務めるのは、千野歩氏。本田技術研究所で自動運転システムやモータ制御の研究に関わっていたという。

  • 千野歩氏

    Ashiraseの代表取締役を務める千野歩氏(提供:ホンダ)

千野氏の視覚障がいを持つ身内が、川に落下するという事故で亡くなったことが視覚障がいをもつ方の単独歩行に対する課題を持ち、IGNITIONに応募するきっかけだったという。

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千野氏は2018年度のIGNITIONに「視覚障がい者の誘導」というテーマで応募したが、落選。アイデアや技術をブラッシュアップして再び2020年度のIGNITIONにチャレンジした結果の起業となったという。

Ashiraseは視覚障がい者の歩行をサポートするシューズイン型のナビゲーションシステム「あしらせ」の開発を事業として行う。

  • あしらせ

    ナビゲーションシステム、あしらせ(提供:ホンダ)

あしらせは、靴の中に取り付ける立体型のモーションセンサ付き振動デバイスと、スマートフォンアプリで構成され、GNSSの測位情報と、ユーザーの足元の動作データから、視覚障がい者向けの誘導情報を生成。アプリで移動ルートを設定し、靴の中に取り付けたデバイスが振動してナビゲーションを行うという仕組みを採用している。

  • あしらせのメカニズム

    あしらせのメカニズム(提供:ホンダ)

直進時は足の前方の振動子が振動、右左折地点が近づくと、右側あるいは左側の振動子が振動して知らせる。進行方向を直感的に理解できるため、ルートを常に気にする必要がなくなり、より安全に、気持ちに余裕を持って歩行することを可能にするという。

また、足への振動でナビゲーションを行うため、白杖を持つ手、周囲の音を聞く耳を邪魔しないとしている。

あしらせの使用方法

開発した試作機を、視覚障がいを持つ方に実際に使ってもらい、そのフィードバックをあしらせのユーザーエクスペリエンス(UX)などに活かす形で開発を進め、2022年度中の発売を目指しているという。

Ashiraseはホンダおよびリアルテックファンドからシードラウンドで5,000万円の資金調達を行ったが、独立性を担保するためホンダの出資比率は20%未満としたとしている。

記者会見ではリアルテックファンドの永田暁彦代表が「千野さんはファーストペンギンだと思う。海水に何がいるかわからないときに、1匹が海に飛び出せば、集団の仲間も後からついてくる。ファーストペンギンは誰よりも応援されやすい立場でもあると思う。その代わり後ろについてくる次世代の後輩たちを引っ張るという役割もある。今回、Ashiraseはファーストペンギンとしてホンダから大海に飛び出すが、それを全力で応援して成功させることが後ろに続くホンダの次のイノベーターが出てくる役割になれば社会的価値がより高まる」とエールを送った。

IGNITION審査委員長を務める、ホンダ常務執行役員の水野泰秀氏も「千野さんの姿を見て、従業員が“こういうことができるんだ、やれるんだ”とチャレンジングスピリットを呼び起こすのがIGNITIONの1番の目的だ」という。

ついに大海に飛び込んだファーストペンギン「Ashirase」がどのような活躍をみせるのか、今後ホンダからどのようなイノベーターが出てくるのか非常に楽しみだ。

  • 会見に参加した3名

    左からホンダ常務執行役員の水野泰秀氏、Ashirase 代表取締役の千野歩氏、リアルテックファンド 代表の永田暁彦氏(提供:ホンダ)