3Dプリンタ大手Stratasysの日本法人であるストラタシス・ジャパンは5月10日、 3Dプリンタ3機種の発売を開始することを発表した。
3機種を新たに市場に投入することで製品ポートフォリオを拡充し、試作品の製作から最終製品の製造までの製品ライフサイクル全体に対応し、製造現場での3Dプリンタ活用をより加速させる目的があると同社は説明する。
今回リリースされたのは、1000個程度の最終製品の量産に適した「Origin 0ne」、1万個程度の最終パーツの量産向け「H350」、大型パーツの造形や製造に対応する「F770」の3機種だ。
SLA方式と比較して100倍以上の高速造形を可能にしたDLP方式プリンタ「Origin One」
「Origin One」は、2020年12月にストラタシスが買収を完了したOriginのテクノロジー「P3(Programmable Photopolymerization) テクノロジー」を用いたDLP(Digital Light Processing)方式のプリンタだ。
大量生産用途で3Dプリンタを使用する際、造形時間、材料が高価、製作物の品質の担保といった3つの課題があるが、同社は、その課題を解決できる3DプリンタとしてOrigin Oneを売り出す方針だ。
同プリンタは既存のSLA(Stereolithography Apparatus)方式の3Dプリンタと比較して100倍以上の高速で造形を行うことができ、パーツ完成までは1時間で最大100mmの造形が可能だという。その早い造形速度を可能にしたのがOrigin Oneに搭載されているP3テクノロジーだ。
従来のSLA造形で時間を要していたのは、新しい積層をつくる際に硬化させたレジンとビルド面を引きはがす作業だ。これを他社のDLP方式プリンタではレジンを硬化させないように酸素によるデッドゾーンをつくるなどの方式で対応してきた。P3テクノロジーでは、タンク底面に設置されたメンブレンとUVガラスの間を“空圧”でコントロールすることでレジンの応力を低減し、造形面をメンブレン表面から精度よくスピーディーな剥離を行うことができるという。
また、酸素によるデッドゾーンをつくる必要がないため、材料に非酸素阻害型材料を使用することができる。
材料に関しては、パートナー企業であるBASF、DSM、Henkelの3社とOrigin Oneのために共同開発を行い最高で285℃の高温に対応し、最大70J/mの衝撃強度、最大90MPaの引張強度を有する材料を取りそろえている。
新たに開発した材料に加え、高速造形によるリードタイムの短縮で、1パーツあたりの作成コストを大幅に抑えることができるという。
表面の粗さを2μmRAまで軽減し、±25μmの交差で射出成形レベルのパーツ品質を造形することができ、 最終製品や最終パーツにも適用できる品質を担保しているという。
同社は、1000個程度の製造ボリュームで、消費財や車載部品、医療用、歯科用コンポーネントなど量産指向の製品製造での活用を見込んでいるとしている。
なお、受注開始時期は9月以降を想定しており、出荷時期も9月以降を予定しているという。
SAFテクノロジーを採用した1万個程度の量産規模向け「H350」
H350は、1万個程度の量産に対応するSAF(サフ)テクノロジーを搭載したパウダーベッドフュージョンプロセス(PBF)方式のプリンタだ。
SAFテクノロジーは、量産ニーズに応えるために同社が開発し、2021年3月に発表された新技術だ。SAFテクノロジーを用いた造形では、カウンター回転式ローラーを使用してプリントベッド上に粉末層をコーティングし、吸収流体をプリンティングしてパーツの層を描いていく。 次に、ピエゾ(圧電)方式のプリントヘッド全範囲に赤外線ランプをあてることにより、描かれた層が融合される仕組みだ。SAFテクノロジーの特長は、これらのプロセスをプリントベッド全体で同一方向に実行し(単方向構造)、均一に加熱する点にある。これにより、造形時の配置を問わず、すべてのプリンティング・パーツの一貫性を実現するという点が、SAFテクノロジーがパーツ量産に適している点だという。
材料に関してはヒマシ油から製造された「PA11」(ホワイト)が用意されている。
同製品は小・中型のパーツ向けで、可動性を伴うパーツや耐久性のあるパーツ、負荷がかかる製品の量産に適しているという。 なお、受注開始時期は9月以降の想定で、出荷時期も9月以降を予定しているという。
大型造形のニーズに応える「F770」
知財の漏洩リスクなどから大型造形の内製ニーズはありつつも、費用対効果や造形の信頼性の部分で導入をためらっていたターゲットに向け、F770は1000万円(オープン価格)を下回る価格で提供予定のFDM方式(熱溶解積層方式)プリンタとなっている。
最大1000mm×610mm×610mmに対応した大型パーツ向けのプリンタとなっており、2017年に同社が発表した「Stratasys F123」シリーズに使われている技術をベースに開発されたプリンタのため、F123シリーズの特長である造形品質、メンテナンス性、操作性が担保できるという。
また、製造現場での活用を意識し、設置要件を満たすため、緊急停止ボタンが装備されている。
F770は提供価格を抑え、シンプルなつくりにしているため、大型のプロトタイプの製造に適しているといい、産業機械のプロトタイプ作成や白物家電、自動車、スポーツ用品、重機のプロトタイピングなどへの活用を見込んでいるという。
なお、同製品はすでに受注を開始しており、製品出荷時期は6月10日以降を想定しているとしている。
ストラタシスが保有する5つのテクノロジー
今回の3製品の拡充をもって、ストラタシスはパウダーベッドフュージョンプロセス(PBF)、溶融堆積モデリング(FDM)、P3、SLA、PolyJetの5つのテクノロジーを保有することとなる。
これらの技術は、それぞれ使用可能な材料や用途、製造ボリュームが異なるため、クライアントのニーズに応じてさまざまな3Dプリンタの提案が可能となり、製造プロセス全体にサービスの提供が可能となるとしている。