熊本大学(熊大)は、溶液中で化学的に剥離された厚さ1nm程度の「水酸化ニッケルナノシート」をシリコン基板上に置き、超高真空中で加熱することにより、強磁性を示す金属ニッケルに変換できることを明らかにしたと発表した。
同成果は、同大大学院 先端科学研究部(理学系)の原正大准教授、同大 産業ナノマテリアル研究所の伊田進太郎教授、同大大学院 自然科学研究科の成尾友佑大学院生(現・ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング所属)、広島大学 放射光科学研究センターの澤田正博准教授、熊本大大学院 先端科学研究部(理学系)の下條冬樹教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、国際学術誌「Nanotechnology」に掲載された。
材料を極限まで薄くしていくと、最終的にはグラフェンのように原子1個分の厚さに至る。グラフェンは層状構造を持つグラファイト(黒鉛)を炭素原子1個分の厚さで剥がしたもので、関連研究が2010年にノーベル物理学賞を受賞して以降、原子数個分の厚さを持つ二次元材料(ナノシート)の研究が活発化。こうしたナノシートから、従来の厚い材料とは異なる特殊な現象や特性が次々と発見されており、多様な分野での応用も期待されるようになってきた。
研究チームが今回着目した二次元材料は、層状構造を持ち、2次電池の電極材料などで古くから使われている水酸化ニッケルのナノシートで、溶液中で化学的に合成・剥離することによって得られ、その厚みは1nm程度。大気中などで加熱することで、酸化ニッケルに変化するという特徴が知られており、今回の研究では、加熱による組成変化や構造変化に注目した実験が実施されたという。
具体的には、250℃での加熱を実施したところ、スペクトルが大きく変化することを確認。水酸化ニッケルナノシートが、強磁性を持つ金属ニッケルに変換されることが判明したという。また、原子間力顕微鏡を用いた観察により、元の水酸化ニッケルナノシートの二次元的な構造を保ったまま金属化していることも判明したとするほか、磁気円二色性(XMCD)測定の結果、金属化した試料では磁石としての性質を示すことも確認されたという。
研究チームでは、水酸化ニッケルナノシートが、加熱により酸化ニッケルではなく金属のニッケルに変化することは、二次元材料の特殊性を反映している可能性があるとしている。また、水酸化ニッケルナノシート以外にも水酸化物系の二次元材料は数多く存在しており、それらにも今回考案した手法が適用できることが推測されることから、二次元材料研究の新たな方向性を与えることにもつながることが期待されるともしている。