日本電気(NEC)は4月22日、三菱重工工作機械、NTTドコモ、サンリツオートメイション、構造計画研究所と共に、三菱重工工作機械の滋賀県栗東市にある栗東工場で5G(第5世代移動通信システム)を使用した工場内の無線化に向けた実証実験を2021年1月から2月まで1カ月間実施し、5Gの有効性を確認すると共に工場の無線化に必要な知見が得られたと発表した。
今回の実証実験では、制御や映像伝送などの具体的なアプリケーションを想定し、5Gによる無線通信の評価を行った。工場内の無線化により生産性向上に貢献するという主に3つの課題解決システムを評価・分析し、5Gの導入効果および実装に向けた機能面と運用面で検証したという。
具体的には、変種変量生産に有用な制御系ネットワークの無線化、無軌道型AGV(無人搬送車)の遠隔制御、現場作業員を対象とした効率的な機器などの遠隔保守作業支援の3点。
制御系ネットワークの無線化では、工場の制御系ネットワークで使用する産業用イーサネットとしてEthernet/IPとCC-Link IEを対象とし、5Gの無線ネットワークを利用した通信の評価を実施したとのこと。
5G基地局の設定を最適化して産業用イーサネット特有の一定周期の通信(サイクリック通信)を計測し、遅延や停止を0.1秒未満に抑え、長時間の安定した通信が可能であることを検証したとしている。
無軌道型AGVの遠隔制御では、金属遮蔽物が多い工場内で監視カメラを搭載した無軌道型AGVシステムを稼働させ、高精細画像伝送を想定してスループット(通信速度)が常時10Mbps以上となる通信とAGVの制御信号の通信が、途絶することなく同時に行えることを確認した。
また、無軌道型AGVに搭載した監視カメラで遠隔監視しながらNECマルチロボットコントローラで制御することで、周囲の環境を把握しながらリモートで作業ができることを検証したとのこと。
工場などでは遮蔽などの影響により5G通信エリア端で電波が届きにくいことがあるといい、通信エリアを拡張するために無線LAN装置を追加で設置した。NECのネットワーク仮想化技術を使用し、状況に合わせて最適な通信経路(無線LAN)へ無瞬断で切り替えでき、制御を止めずに運用できることを確認したとしている。
遠隔保守作業支援では、5Gによる映像伝送を使用して生産設備の保守作業を遠隔支援するシステムをクラウド基盤サービスである「NEC Cloud IaaS」上に構築し、現地映像をリモート共有して、スマートグラスによる現場作業員への情報提供および、Webアプリケーションによる遠隔保守員への設備状態に関する情報提供の有効性を検証した。
同時に、5Gによる振動データ収集、AI(人工知能)によるデータ解析、現場へのフィードバックをリアルタイムで行うことで、熟練工が現場にいなくても掘削中の工具の摩耗状況などがわかる仕組みを構築したという。
この他、電波環境の情報をクラウドに収集することで、工場内の動的な電波マップを生成できることを確認。工場特有の要因による無線状況を把握し、工場の無線化に向けての多くの知見を収集できたとしている。