電気通信大学(電通大)ならびに岐阜大学は4月19日、準粒子「磁気スキルミオン」の特性を電気的方法により識別することに成功したと発表した。
同成果は、電通大 情報・ネットワーク工学専攻の仲谷栄伸教授、岐阜大 工学部の山田啓介助教、英・ヨーク大学電子工学科の廣畑貴文教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
磁気スキルミオンは、渦状の磁化構造を有しており、そのサイズは数nm程度と小さく、キラルな構造を持つことなどを特徴とする。
また磁性薄膜内での安定性が高く、動作に必要な電力も小さいことなどから、スピントロニクス分野において省電力性能を有する、次世代磁気メモリの情報キャリアとしての応用が期待されている。ただしそのためには、磁性薄膜をナノワイヤー状に微小加工し(トラック)、磁気スキルミオンをトラック上で消滅・生成・移動させる必要があった。
これまでの研究においては、トラック上の磁気スキルミオンの有無で情報を表す方式が多く採用されてきた。この方式の場合は、情報の読み取りをする際にトラック上で生成した磁気スキルミオンを電気的手法によって移動させ、読み取り位置で磁気スキルミオンの有無を調べるという方法がよくとられていた。
実は磁気スキルミオンにはもう1つ情報を表すのに使えるパラメーターとして渦の巻き方が存在している。渦の巻き方には左巻きと右巻きのキラリティが存在することから、この巻き方の自由度も情報として利用することが考えられており、これにより、1つの磁気スキルミオンにおいて複数の情報を表すことができるようになるとされ、その渦の巻き方(キラリティ)の制御方法や識別方法が求められていた。
そうした背景を踏まえ、研究チームがこれまでの研究で開発したのが、磁気スキルミオンに熱パルスを照射することで、そのキラリティを切り替えられるという技術である。
このときの研究では、磁気スキルミオンのキラリティを切り替えられる熱パルスの照射時間や照射面積などの条件が詳細に調べられ、切り替え時に起こる磁化のダイナミクスが明らかにされていた。しかし、その識別を行う方法の開発にまで至っていなかったという。
そこで今回の研究では、磁石を複数の磁気モーメントで表し、その磁気モーメントによって作られる磁化構造やその動的変化を調べる「マイクロマグネティック・シミュレーション」が用いる形で、キラリティの識別方法についての分析が行われた。
具体的には、磁性薄膜からなるキラリティ識別のためのトラックは分岐を有する構造とし、その分岐領域において、電流による磁性薄膜中の磁化に働く力である「スピン軌道トルク」が働く素子構造を考案。電流をトラックに印加すると、磁気スキルミオンはトラック上を移動し、磁気スキルミオンが分岐領域に到達すると、スピン軌道トルクと磁気スキルミオンのキラリティによって、磁気スキルミオンの移動方向が変わることが確認されたという。このことは、スピン軌道トルクと電流の組み合わせによって、磁気スキルミオンのキラリティを識別する手法を実証できたことを示していると研究チームでは説明する。
また、磁気スキルミオンを識別できる分岐の角度や、移動に必要な電流パルスの大きさも調べられ、磁気スキルミオンの識別がこれまでに報告されている磁性薄膜で実現可能であることを示すことにも成功したとする。
今回の研究成果について研究チームでは、磁気スキルミオンのキラリティを新たに情報として使用することが可能であることが示されたとしており、これは、磁気メモリの大容量化につながる成果だとするほか、磁気スキルミオンを利用する記憶・演算素子における情報キャリア、または脳機能の働きに類似した数理モデルである「ニューロモーフィックコンピューティング」のシナプスへの利用など、省エネルギー・高密度・超小型化の次世代情報記録デバイスの創出に貢献できる技術となる可能性が示されたともしている。