科学技術振興機構(JST)は2021年3月24日にJST理事長記者説明会を開催し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策向けのワクチンの免疫獲得を助けるアジュバント(抗原性補強剤)の有力候補である多糖核酸複合体のβ-グルカン系適用の事業化を進める「国産アジュバント製造事業化プロジェクト」を、コロナ対策臨時特別プロジェクトの一環として開始したことを公表した。

現在、COVID-19向けワクチンが米国や英国などの大手医薬品メーカーから数種類が実用化され、日本を含む世界各国でワクチン接種が始まっている。この各種ワクチンには、ワクチンの免疫反応を高め、免疫獲得を助ける「アジュバント」が添加されている。 JSTの濱口道成理事長は「アジュバントは、ワクチンの主成分である受容体タンパク質を刺激して、免疫反応を活性化し、高い免疫反応と長期間の免疫応答を実現することができる。このアジュバントが安価であれば、主成分の必要抗原量が減り、ワクチンの価格が下がる可能性が高いと見込まれる重要な物質だ」と解説する。

今回公表した、国産アジュバント製造プロジェクトは、元々JSTの戦略的創造研究推進事業で見いだされた多糖核酸複合体の研究開発・事業化の研究開発成果とJSTのネットワーク型研究開発プロジェクトのさきがけとして、2000年から北九州市立大学環境技術研究所環境生命工学科の桜井和朗教授などが研究開発を続けた研究開発成果が基盤技術になっている。

また、桜井教授は東京大学医科学研究所の感染・免疫部門ワクチン分野科学分野の石井健教授と共同で、「戦略的創造研究推進事業CREST」として、鳥インフルエンザワクチンなどへの応用を目指す研究開発プロジェクトを続けてきた。 今回開催されたJST理事長記者説明会には、北九州市立大の桜井教授と東京大の石井教授がWEB会議で参加し、国産アジュバント製造プロジェクトの中身を解説した。

  • “純国産アジュバント製造”プロジェクトの説明図

    “純国産アジュバント製造”プロジェクトの説明図

今回発表された、国産アジュバント製造事業化プロジェクトに先立って、これまで行ってきたCRESTの研究成果などを基に、産学共同実用化開発事業のNexTETとして「新規汎用型ワクチンアジュバント」の研究開発事業化が2014年度から進められてきた。この新規汎用型ワクチンアジュバントは第1相臨床試験用治験薬開発用としてステージ2まで開発が進んでおり、ガン免疫治療薬として事業化がこれまで進められてきたものだ。

東京大医科学研究所の石井健教授は「現在の新型コロナ感染症用ワクチンに採用されているアジュバンドをしのぐ新型アジュバンドの事業化を目指している」という。

これまでの新規汎用型ワクチンアジュバントの研究開発事業化のなかで「β-グルカンという三重らせん構造の多糖核酸複合体は、新規のガン免疫療法として有望で安全性が高いと考えられている」と解説し、 このβ-グルカンという三重らせん構造の多糖核酸複合体が安全で有効性が高い新型コロナ感染症向けのワクチン用に、アジュバントとして実用化できると、国産アジュバントは世界各国のワクチン開発を強力に支援できる可能性が高いと力説した。

現行の新型コロナ感染症向けのワクチン用には、名称「Alum」や「MF59」などのB型肝炎ワクチンやH1N1インフルエンザワクチンなど向けに実用化されたアジュバントが使われていると推定されている。 JSTは「この既存のアジュバントをしのぐ国産アジュバントを開発し、事業化することを、目指している」という。

参考文献

JST、COVID-19対応のプランBの異分野横断型の研究開発・実用化推進を募集へ
JST、CRESTコロナ対策臨時特別プロジェクトに採択したテーマと担当者を公表