2020年は新型コロナウイルスに始まり、終わった1年であった。そうした中、企業ではデジタル化が進んだと言われている。それを実現する技術の1つがAIだ。2020年の動向を踏まえ、2021年、AIはどのような変化を見せ、企業に何をもたらすのだろうか。

今回、アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部 AIグループ 日本統括 兼 AIセンター長の保科学世氏に、2021年のAIの展望について話を聞いた。

  • アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部 AIグループ 日本統括 兼 AIセンター長 保科学世氏

保科氏は、2021年に予想されるAIに関する変革として、次の5点を挙げた。以下、これらのポイントに沿って、AIの変革について紹介していこう。

  • 2021年は企業にとってAIの活用がニューノーマルに(AI is Everywhere)
  • AIを本格導入・展開できる企業とできない企業の分岐点に
  • AIは現場を支える存在から経営を支え、社会課題を解決する存在へ
  • AIのリスクが顕在化、責任あるAIが求められる
  • トップから現場まで、AIとの協業に向けカルチャー変革が始まる

AIの本格導入・展開に苦労している世界中の企業

デジタル技術がわれわれの生活に不可欠なものであることは言うまでもないだろう。2021年は企業にとってAIの活用がニューノーマルになるという。保科氏はその例として、世界時価総額ランキングを挙げた。同ランキングの2020年のトップ10に、AIをビジネスやサービスの主軸に据えている企業が8社を占めている。8社のうち、2000年の同ランキングに入っていたのはMicrosoftのみだ。つまり、AIの活用が企業の成長のカギとなっているわけだ。

  • 20年間で、ずいぶんと顔ぶれが変化した世界時価総額ランキング(2000年、2020年それぞれの1年間において、AI関連(Artificial Intelligence, Data Science, Machine Learningなど)の記事数をアクセンチュアにて独自集計し、企業別記事数ランキングTOP80に含まれる企業をAI開発・活用先進企業として定義)

そして、保科氏は「既に特定の業務に特化してAIを導入する企業は出てきていますが、企業が生き残り、成長するにはAIを本格導入・展開することが重要であり、それができるかどうかで、2021年は勝負が分かれる年となります」と指摘する。さらに、「AIの本格導入・展開とは何を意味するのでしょうか。特定業務の効率化など、局所的にAIを活用するのではなく、ビジネス全般にわたる課題解決にどうAIを役立てるか考え、経営判断など全社規模でAIを活用することが可能になります。これをサポートするのがわれわれのミッションでもあるのです」と、同氏はいう。

ただし、同社の調査において、グローバルの経営者の76%、日本の経営者の74%が、「AIを試験的に導入する方法はわかるが、全社にAIをスケールさせることに苦労している」と回答したという。

企業がAI導入において直面している課題とは?

では、企業はAIを導入するにあたり、どのような壁に直面しているのだろうか。保科氏は、企業におけるAI導入の壁は3つあるとして、以下を挙げた。

  • 顧客体験・業務全体を踏まえたサービス設計ができていない
  • 実業務に適したAI技術・プレーヤーを選定できていない
  • 周辺機能も含めたシステム全体像が描けていない

AIに限らず、IT導入においてありがちなのが、導入がゴールになってしまうケースだ。つまり、導入した後にどのように運用し、どのような成果を達成したいかが明確ではないため、結果として、「導入したものの、成果が見られない」と結論づけられてしまうケースがよくある。

保科氏は、「AIの導入は他のITと比べても難易度が高く、企業のあるべき姿が問われます。ビジネス全体の課題のソリューションとしてAIを位置付け、他社との差別化を図ることができるかどうかで、大きな差が出ます」と話す。

また、AIの技術は多種多様であり、提供するITベンダーも実に多い。保科氏は「アクセンチュアが組んでいるAIプレーヤーを数えてみただけでも、200社に及んでいます」という。これだけ多くのAIプレーヤーがいる中で、ユーザー企業が自社に適した企業を選ぶのは至難の業と言えよう。

さらに、保科氏はAIをスケールするには、「企業で利用しているレガシーな基幹業務との連携まで行う必要があり、レガシーなシステムを含めたシステムの再構築が必要」と語る。