アビームコンサルティングは12月14日、オンラインで記者説明会を開き、日本におけるデジタル技術を活用した変革への取り組み(デジタルトランスフォーメーション=DX)の実態を把握し、DXの成功と失敗の分岐点を明らかにすることを目的に年間売上1000億円以上の企業のDX推進の意思決定に関与する部長職以上の役職者(515人)を対象に、DXに関する最新調査を2020年10月~11月に実施したと明らかにした。
DXに成功しているのは約7%
DXの取り組みテーマに関して、現在取り組んでいるテーマと最も重要だと考えるテーマについて調査したところ、①新規事業の創出(25%)、②顧客接点デジタル化(14%)、③新サービス・製品開発(13%)の順に重要であると考えており、実際に重要だと考えるテーマに取り組んでいることがわかったという。
日本企業の多くは、新たな事業の柱となる新規事業開発や既存事業の収益性を高めるための既存事業のビジネスモデル変革、効率化に資するRPA(Robotic Process Automation)やオペレーション変革・コーポレート機能の高度化に取り組んでいる。デジタルを活用して事業をスケールさせることや、新たな事業の柱を構築し、事業ポートフォリオを変革することが、多くの企業にとって重要な課題となっている。
一方、テーマに関わらず、DXに成功しているのは約7%であることが判明し、そもそも企業における変革プロジェクト自体の難易度が高い上、システム導入やプロセス変革にとどまらず、事業の変革、リソース配分、新たな体制の構築など、従来とは異なる次元の変革も必要となり、DXの難易度の高さがうかがえるという。
DXの成功と失敗の分岐点とは?
アビームコンサルティング 戦略ビジネスユニット ビジネスユニット長 執行役員 プリンシパルの斎藤岳氏は「テーマの内容によらず、多くの企業がDXの取り組みに苦戦している。特にオペレーション改革や働き方改革などは成功率が非常に低い」と指摘する。
また、企業がDXを推進する上で必要な5つの観点から、自社の取り組みの達成度を調査したところ、成功した企業と失敗した企業を分ける要因のうち特に着目すべきは「全社員へのデジタル教育(リテラシー)」「デジタル知見を有した経営陣による意思決定(リーダーシップ)」「デジタルとビジネス・業務知見を有した推進組織の組成(体制)」であり、それらがDXの成功と失敗の分岐点であることが明らかになった。
同氏は「社員のデジタルに対するリテラシーを高め、経営企画や社長直轄型など、経営者がリーダーシップを持っていると比較的成功している。また、役割として『計画立案』『推進テーマの選定・優先順位の検討』を担うDX推進組織を有していると成功しやすく、マイルストーンやゴールを設定し、テーマの優先順位付けを現場に任せずにDX推進組織がイニシアティブを握ることが重要だ。そして、十分な予算や人的リソースを割り当てるべきだ」と話す。
その上で斎藤氏は成功するグループと成功に至らないグループの違いについて「DXを単なるブームではなく“目指すべき姿への継続的な変革”として企業の生き残りや繁栄のための『経営の本丸』と捉え、不退転の覚悟を持つべきである。一方でデジタルを新たな読み書きそろばん(たしなみ)の1つとして捉え、現場を巻き込んだ活用にしていくことも重要だ」と説明した。
DXの成功率を高める5つの要因
今回の調査で判明したDXの成功と失敗の3つの分岐点と、日本企業のDX推進支援で培ってきた知見やノウハウから、DXの成功確率を高めるためには「明確なDXビジョン」「思い切ったヒトとカネの投資」「デジタル知見を有した経営陣の覚悟」「アジリティとダイバーシティのある組織」「デジタル教育と変革の意識付け」の5つの要因が重要であるという。
明確なDXビジョンについては「いつまでに」「何を」「どういった状態にしたいのか」「そのための何をすべきなのか」をビジョンとして具体的に描き、部門ごとのロードマップや目標値までブレイクダウンする必要がある。
思い切ったヒトとカネの投資に関しては、変革のためには一定のリスクをとってリソースの配分が必要あることから、必要に応じて社外の活用やアライアンスを組んで進めるなど、企業としてのコミットメントが必要となる。
デジタル知見を有した経営陣の覚悟では、経営陣が推進体制の責任者となり、事業、ビジネスモデル・プロセス、オペレーションといったあらゆる変革の取り組みに対して、意思決定をしなければならないことに加え、意思決定をする経営陣のデジタルリテラシー向上を最優先に据える必要がある。
アジリティとダイバーシティのある組織は、取り組みを試験的に始め、必要に応じて適宜変更するとともに自社内のナレッジだけに依存せず、最新のトレンドや他社事例を踏まえながら、自社にとって最適な解を探していく必要がある。
デジタル教育と変革の意識付けについては、経営陣、推進メンバー、現場全体にデジタル教育がなされ、他企業の取り組みやデジタルがもたらす可能性や及ぼす影響の理解を深めるとともに、推進するためには現場の巻き込みが欠かせない日本企業の特性を考慮し、様々な手法を活用した丁寧なコミュニケーションが必要となる。
最後に斎藤氏は「日本の優良企業が競争優位を維持する時間が従来よりも短くなっている。つまり、目指すべき姿が常に変化しており、変革のエンジンを企業として持つべきである」と力を込めていた。