NTT東日本 福島支店と富岡町、東京農工大学は12月9日、東日本大震災で拡大した獣害の軽減を図るため、IoTを活用したイノシシの追い払い・捕獲、追い払われたイノシシの行動分析をする実証実験を実施したと発表した。 富岡町は福島県浜通り地域に位置しており、2011年の東日本大震災後に避難指示が出されており、2017年4月の帰還困難区域を除いた避難指示解除に伴い、営農が再開されたものの営農再開生産者の多くは避難先から再開した農地へ通う「通い農業」を行っている。

そうした営農再開生産者を支援するため、東京農工大学は福島イノベーション・コースト構想推進機構の「(2018~2020年度)学術研究活動支援事業(大学等の「復興知」を活用した福島イノベーション・コースト構想促進事業)」を活用し、営農再開生産者である渡辺伸氏の協力のもと、農業復興、農業振興のため「営農再開地域における先進的なオーガニック作物生産技術の開発」の研究活動に学生とともに取り組んでいる。

同町と東京農工大学は、同町の農業振興および新産業振興に関する事項について、同町の有機農産物生産の産地形成を推進し、農業振興、営農を再開した農家の農業収入の安定化と所得の拡大、技術開発・普及・人材育成等に資するとともに、東京農工大学大学院農学研究院が同町の行政活動に資する教育研究を実施することで、地域社会の発展に寄与することを目的に2019年1月に包括連携協定を締結している。

NTT東日本も2019年度から同町の通い農業における生産性向上・省力化に向けた取組みとして、センサやカメラを利用した農業IoTの有効性を検証しており、今回の実証実験は営農再開の障壁となっている獣害の軽減に向け、取得したデータと大学の持つ学術知見を用い、新たな獣害対策を行うものとなる。

実証実験では、IoTセンサを活用した追い払い機器によるイノシシの追い払いを実施し、追い払い実施前後のイノシシの活動時間や、水田周辺の環境選択の変化を自動撮影カメラを用いて調査。また、IoTセンサを活用した 追い払い機器によるイノシシの追い払いを実施した後、捕獲検知センサを活用して捕獲したイノシシにGPS装置を取り付け、行動圏と環境選択の特徴、水田への出没率を調査した。

具体的には(1)イノシシの活動範囲の見える化、(2)音と光による追い払いを行った。(1)では自動撮影カメラ約20台を調査地域に一定密度で仕掛け、撮影した画像からイノシシのおおまかな年齢区分(成獣、幼獣)と性別、繁殖の有無(子連れ)などを調べるとともに、出没ポイントや活動時間帯を調査。

調査結果を踏まえて捕獲罠の設置位置を決定し、捕獲検知センサを活用して捕らえたイノシシに首輪型のGPS装置を取り付け、イノシシの行動圏の分析および追い払い後のイノシシとの行動比較を実施した。2020年10月10日~24日にオス1頭とメス1頭の捕獲に成功し、メスに取り付けたGPS装置を用いて追跡を行った。

(2)ではイノシシの出没確率が高い場所に追い払い機器を設け、イノシシをセンサが感知したタイミングで音と光による追い払いを行ったほか、自動撮影カメラの画像データを解析し、追い払い後の活動時間や出没状況の変化、音と光の効果及びイノシシの学習能力の度合いについて検証した。

データ分析から、子連れのメス2頭を含む成獣が複数定住していることが明らかになり、追い払い機器の設置日から稲の収穫までの期間、マスターノードで撮影された映像からイノシシの出没を19回確認し、19回とも遠ざける様子を記録する事ができたという。また、追い払い実施後は機器付近のイノシシの活動が大きく低下し、犬の声を利用した追い払い機器は、機器付近でのイノシシの活動を低下させることが実証された。

  • 実証実験の概要

    実証実験の概要

各者の八鍬恵智として富岡町は富岡町鳥獣被害防止計画との整合、関係法令手続指導、プロジェクトの実行管理を、東京農工大学は自動撮影カメラの設置およびデータ解析、イノシシの生態調査および行動分析を、NTT東日本はIoTを活用した事業提案、データ収集、IoT技術(追い払い機器・捕獲検知センサ)の提供をそれぞれ担った。実証実験期間は2020年7月1日から同11月30日まで。

今後、3者は実証実験を通じイノシシの追い払い機器周辺の行動特性を把握できたことから、今後はさらに環境選択や行動圏を把握し、人とイノシシの生活圏を線引きする上で有効な対策の立案に取り組んでいく。