車にひかれても潰れないことで知られる甲虫が北米にいる。東京農工大学など日米の研究グループがその体を詳しく調べ、外骨格の継ぎ目に独特の2対の凹凸構造を持つなどして、頑強な体を形作っていることを発見した。生物の構造や機能などをヒントに技術開発する分野「バイオミメティクス」で今後、注目されそうだ。
米カリフォルニア州南部の乾燥地域に生息する甲虫「コブゴミムシダマシ」は羽根がなく飛べないが、乗用車にひかれても耐える頑強な外骨格で体を覆っている。その特徴から「アイアンクラッド・ビートル(鋼鉄で武装した甲虫)」とも呼ばれる。
この体の秘密を明らかにしようと、研究グループは金属材料の試験法を使い、外骨格を計測した。その結果、この虫は自重の約3万9000倍に相当する約133ニュートンもの荷重に耐えることが分かった。近縁種の倍以上の性能という。 外骨格を電子顕微鏡やCTスキャンで調べ、接合部の断面がパズルのピースのように2対の凹凸構造でかみ合っていることも発見した。これまで甲虫では1対のみが知られており、2対の発見は初めてとみられるという。 また、甲虫の表皮は多糖類のキチンやタンパク質でできた繊維が縞模様のように層状に積み重なっているが、この層構造が凹凸部分にも及んでいた。このことが、力を加えても粘り強く持ちこたえる靱性(じんせい)に大きく貢献しているという。外骨格の有機物の組成を調べ、タンパク質の割合が日本のカブトムシより約10%高いことも判明。このことも頑強さに役立っているとみられる。
炭素材料でこの2対の凹凸をまねた人工の構造体を作り、接合部の特性を調べたところ、航空機などの外板のつなぎ目や部品を接合する「リベット」に比べ、特に靱性の点でかなり優れていることを確認。この構造は航空機や自動車などの生産に応用できる可能性があるという。 東京農工大学の新垣篤史准教授(生物工学)は「繊維の層構造が凹凸部分にあるのは、靱性を高める絶妙なデザインだ。この虫は厳しい環境の中で進化するうち、これらの特徴を獲得したようだ」としている。 研究グループは東京農工大学のほか米カリフォルニア大学、パデュー大学、ローレンスバークレー国立研究所、テキサス大学で構成。成果は10月21日付の英科学誌「ネイチャー」に掲載された。
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