ロシア国営宇宙企業「ロスコスモス」は、2020年10月14日、3人の宇宙飛行士を乗せた有人宇宙船「ソユーズMS-17」を打ち上げた。

宇宙船はその3時間3分後、国際宇宙ステーション(ISS)へのドッキングに成功。従来、ソユーズの打ち上げからISSへのドッキングまでは最短でも6時間かかっていたが、超高速ランデヴーを採用したことで、史上最短記録を樹立した。

その背景には、ソユーズ宇宙船の最新型である「ソユーズMS」に導入された、数々の改良による進化が活きている。

  • ソユーズMS-17

    ソユーズMS-17を搭載したソユーズ2.1aロケットの打ち上げ。このあと、史上最短となる約3時間で国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングした (C) Roskosmos

ソユーズMS-17の超高速ランデヴー

ソユーズMS-17を搭載したソユーズ2.1aロケットは、日本時間10月14日14時45分(現地時間11時45分)、カザフスタン共和国にあるバイコヌール宇宙基地から離昇した。

ロケットは順調に飛行し、ソユーズMS-17を所定の軌道に投入した。

ソユーズMS-17には、ISSに超高速でランデヴーする方法が初めて採用され、打ち上げからわずか3時間3分でドッキングに成功。従来のソユーズ宇宙船は、打ち上げからドッキングまで、早いときで約6時間、遅いときで約2日間もかかっており、大幅な記録更新となった。

これまでドッキングに時間がかかっていたのには、ソユーズの計算能力が限られていたこと、そしてソユーズと地上との通信可能な時間が限られていたことという、大きく2つの理由があった。

かつては、ソユーズの軌道決定や計算は、地上側がその多くを担当しており、そのために打ち上げ後のソユーズと地上とが何回も通信する必要があった。しかし、ソユーズがロシアの地上局の上空を通過するタイミングでしか通信できないうえに、その頻度は1日に4周回程度しかなかった。たとえば、ある周回でソユーズの軌道を決定し、それに基づいたエンジン噴射のデータをソユーズに送れるのは、さらにその1周回後といった具合になるため、結果的にISSとのドッキングまで2日間もかかっていたのである。

その後、2010年には「ソユーズTMA-M」という新しいソユーズが登場。搭載コンピューターの計算能力が向上し、通信が限られているなかでも早く軌道決定や計算ができるようになり、その結果打ち上げから約6時間でドッキングすることができるようになった。ただし、ISSの軌道の都合や、打ち上げ時の軌道投入精度や軌道変更噴射に誤差が生じた場合などには、従来どおり2日かけてISSにドッキングする飛行プロファイルとなる。

そして2016年、現行型となる「ソユーズMS」がデビュー。新しい通信システムによってデータ中継衛星を使用した通信が可能となり、ソユーズと地上との通信可能時間帯が増加した。さらに、衛星測位システムを利用した新しい航法システムや、より計算能力の高いコンピューターなどが搭載されたことも働き、打ち上げからたったの2周回、わずか約3時間でのドッキングが実現することとなった。

なお、6時間でのランデヴーと同じく、ISSの軌道の都合や、打ち上げ時の軌道投入精度や軌道変更噴射に誤差が発生した場合などには、超高速ランデブーができなくなる場合もある。

超高速ランデヴーはまず、2018年7月に打ち上げられた無人補給船「プログレスMS-09」で初めて試験的に実施。その後もプログレス補給船を使って実績が積み重ねられ、今回満を持して有人のソユーズで実施されることになった。

ソユーズをこれほど早くISSに到着させるのには、ソユーズの船内が非常に狭く、そこに長い間宇宙飛行士を閉じ込めておくのは、精神的にも肉体的にも負担が大きいということがある。

なお、米国スペースXが開発した「クルー・ドラゴン」や、ボーイングの「スターライナー」といった宇宙船も、理論上は短時間でのドッキングは可能だが、これらは船内が広いため、それほど急ぐ必要がなく、打ち上げからドッキングまで約1日間かける飛行プロファイルが標準となっている。

  • ソユーズMS-17

    ISSに接近するソユーズMS-17 (C) NASA

最後のNASA宇宙飛行士のソユーズ搭乗となるか?

ソユーズMS-17には、船長としてセルゲイ・ルィジコフ宇宙飛行士(ロスコスモス)、フライト・エンジニアとしてセルゲイ・クジ=スヴェルチコフ宇宙飛行士(ロスコスモス)、キャスリーン・ルビンス宇宙飛行士(NASA)の3人が搭乗していた。ルィジコフ、ルビンス宇宙飛行士は今回が2回目、クジ=スヴェルチコフ宇宙飛行士は初の宇宙飛行となる。

3人は第64次長期滞在クルーとして、約半年間、ISSの運用や実験を行う。

なお、ISSには今年4月から、第63次長期滞在クルーのクリストファー・キャシディ、アナトーリィ・イヴァニシン、イヴァーン・ヴァーグネル宇宙飛行士ら3人が滞在している。そのため、しばらくは6人体制での運用となるが、キャシディ宇宙飛行士ら3人は10月22日に地球に帰還する予定で、その後はリジコフ宇宙飛行士ら3人での運用となる。

その後、11月上旬から中旬以降には、クルー・ドラゴンCrew-1の打ち上げが計画されており、これによりマイケル・ホプキンス、ヴィクター・グローヴァー、シャノン・ウォーカー、そして野口聡一宇宙飛行士の4人が合流し、ISSは7人体制で運用される予定となっている。

ちなみに、ソユーズの打ち上げにおいては、実際に宇宙へ飛び立つ3人のプライム・クルーのほか、プライム・クルーに健康面などで問題が起きた場合に備え、3人のバックアップ・クルーが設定されるが、今回のソユーズMS-17においては、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行の影響で、バックアップのさらにバックアップとなる「リゼールヴヌィ・イキパーシュ(直訳すると『予備クルー』)」も2人設定されていた。

ソユーズMS-17はまた、NASAがロシアからソユーズの座席を購入して宇宙飛行士を送り込む、最後のミッションとなる予定である。

NASAはスペース・シャトルの引退後、宇宙飛行士の輸送手段を失ったため、ロシアからソユーズの座席を購入し、NASAや日本、欧州、カナダの宇宙飛行士をISSへ送り込んでおり、今回のルービンズ宇宙飛行士の搭乗に際しても、NASAは9030万ドルを支払っている。

だが、米企業によるクルー・ドラゴンやスターライナーの開発が進み、米国がふたたび自律的に宇宙飛行士を飛ばせるようになる見込みが立ちつつあることから、座席を購入する必要がなくなり、現時点で新しい購入契約は結ばれていない。

もっとも、NASAなどの宇宙飛行士がソユーズに乗る機会自体がなくなるというわけではない。NASAとロスコスモスはかねてより、ロスコスモスの宇宙飛行士がクルー・ドラゴンなどに乗ってISSに行き、その代わりにNASAの宇宙飛行士がソユーズに搭乗するという、バーターを行うことを検討している。これにより、どちらかの宇宙船が事故などで飛行停止になったとしても、少なくとも双方の宇宙飛行士がそれぞれ1人、ISSに滞在し続けることが保証されることになる。

ただ、NASAはこの計画に前向きではあるものの、ロスコスモスは現時点ではまだ、米国の新型宇宙船の信頼性が確立されていないことなどを理由に同意しておらず、今後どうなるかは未定である。

  • ソユーズMS-17

    ソユーズMS-17を搭載したソユーズ2.1aロケットの打ち上げ (C) Roskosmos

参考文献

https://www.roscosmos.ru/29403/
https://www.roscosmos.ru/29404/
First time in three hours: Soyuz MS-17 docked to the ISS - State space corporation ROSCOSMOS
Soyuz MS-17 completes 3 hour journey to ISS - NASASpaceFlight.com
Soyuz crew docks with International Space Station - Spaceflight Now