ソフトバンクは8月31日、千葉県市原市勝間にある双葉電子勝間ラジコン飛行場において、遭難事故や災害の発生時に活用できる「ドローン無線中継システム」によるデモンストレーションを報道関係者向けに行った。

同システムは、災害で通信障害が発生している携帯電話サービスエリアを迅速に復旧させることや、遭難事故において遭難者や行方不明者の位置特定を実現するために、ソフトバンクと東京工業大学によって共同開発された。

被災地の携帯サービスをいち早く復旧させる

「開発の契機となったのは東日本大震災」と、東京工業大学 特任教授 ソフトバンクフェロー兼任 藤井輝也氏は語る。

2011年3月11日に発生した東日本大震災によって、約4000の携帯基地局が倒壊してシステムダウンし通信障害が発生した。復旧作業も最長1カ月にも及んだという。

これを受け両者は2016年、災害に対する「備え」として、短時間での運用開始かつ大きなサービスエリアの確保を可能とする「係留気球無線中継システム」を共同開発した。

  • 東京工業大学 特任教授 ソフトバンクフェロー兼任 藤井輝也氏

「係留気球無線中継システム」は、被災地で子機(無線中継局)を載せた気球を浮上させ、最寄りの携帯基地局と親機(無線中継局)を接続することで、無線中継エリアが構築され被災者の携帯サービスが使えるようになるもの。

6時間から半日程度で運用開始でき、気球が100m浮上すると半径(最大)10㎞の無線中継エリアが構築される。また、扁平型の気球で風の影響を受けいにくい構造になっており安定して空中に滞在することができる。まさに携帯基地局が宙に浮かんでいるイメージだ。

  • 係留気球無線中継システム 概念図

しかし一方で、近年、台風や大雨などの異常気象による水害が多く、今まで以上に迅速に携帯サービスの復旧が求められるようになったという。

そこで両者は、気球から機動性の高いドローンへと変更した。ドローンなら運搬・設置が容易かつ被災地到着後1時間以内の運用開始が可能で、100~150mの高さまで飛行することができる。

しかしまだバッテリーの問題があった。両者が開発したドローンは一回の充電で最大30分程度しか運用することができず、30分ごとに充電して再び飛ばす、といった運用方法では無線中継エリアが構築されたとは言い難いだろう。

そこで、この課題を解決するため両者は、電力を地上から有線で供給できるドローンを開発した。

  • 有線給電ドローンによる無線中継システム

地上から電力を供給し続けることにより、24時間連続飛行が可能になった。また風速15m/s以上の対風速性能も確認されている。

  • 実証実験で使用された有線給電ドローン 奥に4つあるのが給電機

  • ピンクと白のコードから給電する

有線給電ドローンが上空に飛んでいる様子

また同ドローンは、現地からプロポ(操縦機)を使用して手動操作する以外にも、GPS機能を活用した自立飛行や、両者が共同開発した「ケータイドローン飛行制御システム」による遠隔地から目視外の手動操作を行うことも可能だ。

  • ケータイドローン飛行制御システム 概念図

目視外通信で操縦するときは映像データがなければ操縦することはできないので、ドローンには小型のカメラが搭載されている。このカメラが撮影した映像データがモバイルネットワークを介して送信され、問題なく遠隔から操縦することができる。

  • プロポでの手動操縦はしていない

  • 専用のタブレットで自立飛行の設定を行う

  • 目視外による遠隔操縦 ※デモのため実際には少ししか離れていない

さらに、ドローンの飛行途中に操縦方法や通信方法を自由に切り替えることも可能だ。モバイル通信からWi-Fiなどの特定通信に切り替えたり、現地の操縦士が急に操縦できなくなった場合に現地制御から遠隔制御に切り替えたりするなど、さまざまな運用状況において適切な操縦方法をとることができる。

この機能により、災害発生時にドローン操縦者、中継運用者が現地に集まる必要がなくなり、ドローンを現地に運ぶだけで運用開始が可能になる。

デモンストレーションでは、災害時を想定してサービスエリア圏外になっている携帯電話をドローンの無線中継システムにより圏内にし、通話やメッセージ送信が可能になることが確認できた。

ドローンと係留気球の使い分け

無線中継システム構築においてドローンと気球の使い分けが重要だ、と藤井氏は言う。有線給電ドローンを用いた無線中継システムは設置が容易で一時間以内の運用開始が実現できることから短期・中期的な運用に適している。

一方で、係留気球の無線中継システムは運用開始までに半日程度時間を要してしまうが、いったん空中に上がるとその後の運用は容易なことから長期的な運用に適している。実際に係留気球無線中継システムは、2016年に発生した熊本地震のときに活用されている。

  • ドローンと係留気球の使い分け

遭難者の位置情報をドローンで取得する

ソフトバンクは、「ドローン無線中継システムを用いた遭難者の位置情報取得システム」についても東京工業大学と共同研究を進めてきている。

同システムは、圏外エリアになっている遭難者の周辺をドローンの無線中継システムにより圏内エリアにすることで、遭難者の携帯端末のGPS機能により位置情報を取得するもの。

同システムで用いるドローンは自由に飛び回る必要があるため、有線がついていないドローンを使用する。

  • ドローン無線中継システムを用いた遭難者の位置情報取得システム 概要

  • 使用されたドローン 給電システムがないだけで有線型ドローンと機能は同じ

同ドローンは有線給電ドローンと同様に、15m/sの対風速性能があり「ケータイドローン飛行制御システム」を搭載していることにより、目視外遠隔操作や自立飛行、操縦方法・通信方法の自在な切り替えが可能だ。ただし、充電バッテリーでの運用となるため一回の捜索時間は最大30分程度。

デモンストレーションでは、大雨や地震などの自然災害時を想定し、土砂やがれきの下にある携帯電話の位置情報を取得して被災者の位置を特定する実証実験を行った。

  • 人型人形のポケットにスマートフォンを入れて.......

  • 土砂に閉じ込める

  • 瓦礫も同様にスマートフォンを入れて閉じ込める

  • ドローンを飛ばしてスマートフォンの位置を探す

  • ドローンのカメラによる映像

  • 瓦礫の下に埋めているスマートフォンのGPS情報が表示

藤井氏によると、土砂や瓦礫の中は電波の通信の浸透が非常に悪く携帯端末との通信は困難だという。この課題を解決するため、同ドローンは水平・垂直方向の移動により子機と端末間距離を近づけられるため携帯端末への電波を強くすることができる。

また、狭ビームアンテナ(高利得アンテナ)を実装しており伝搬損失を抑えることが可能で、土砂や瓦礫であっても深くまで通信可能だとしている(土砂や瓦礫の性質に依る)。

  • 位置特定ドローン無線中継システムの特徴

また、遭難者の位置を特定するためには、事前に遭難者の携帯電話に端末アプリケーションをダウンロードする必要がある。

QRコード式のダウンロード方法となっているため藤井氏は、「防災や登山に関するポスターなどにQRコードを記載し、アプリケーションの利用者を増していく」と考えを示した。

  • 位置情報特定の端末アプリケーション

ソフトバンクは、東京工業大学と共同でドローンによる無線中継システムや遭難者位置特定システムの実用化を目指すとともに、自治体や公共機関、企業と連携し、災害対策やドローンを活用した社会課題の解決に向けた研究をさらに進めていく方針だ。