lead東京工業大学(東工大)は8月20日、新型コロナウイルスの複製に関わる酵素の機能を阻害する治療薬候補となる化合物が満たすべき、機能阻害に必要な官能基群の3次元配置モデルのモデリングに成功したと発表した。
東京工業大学(東工大)は8月20日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の複製に関わる酵素「メインプロテアーゼ」の機能を阻害する治療薬の候補となる化合物が満たすべき、機能阻害に必要な官能基群の3次元配置モデル(ファーマコフォア)のモデリングに成功したことを発表した。
同成果は、同大情報理工学院情報工学系の関嶋政和 准教授を中心に、同大物質・情報卓越教育院の安尾信明 特任講師、筑波大学 医学医療系 生命医科学域の吉野龍ノ介 助教らの研究グループによるもの。詳細はオープンアクセスの電子ジャーナル「Scientific Reports」に掲載された。
これまでの研究からSARSウイルス(SARS-CoV)の複製に関わるメインプロテアーゼに対して、ペプチド様抗HIV-1薬が有効であることが報告されており、SARS-CoVと密接な系統的関係があるSARS-CoV-2のメインプロテアーゼの多くも構造的・機能的特徴を共有していることから、ペプチド様抗HIV-1薬がSARS-CoV-2におけるメインプロテアーゼを標的とする薬剤の候補として考えられている。しかし、SARS-CoV-2のメインプロテアーゼの原子レベルでの作用機序はこれまで明らかになっていなかった。
今回の研究では、東工大のスパコン「TSUBAME3.0」を用いて、1μsの時間スケールでの分子動力学(MD)シミュレーションを実施。SARS-CoV-2のメインプロテアーゼと3種類の薬剤候補化合物との相互作用を解明し、ファーマコフォアをモデリングすることに成功したという。
また、モデリングしたファーマコフォアの正しさを検証するため、SARS-CoV-2のメインプロテアーゼの機能を阻害することが知られている「α-ケトアミド阻害剤」が、実際に適合するか調べたところ、α-ケトアミドの1つの水酸基と2つのカルボニル基がファーマコフォアモデルと一致していることも確認したという。
なお、研究グループでは、新型コロナに対する治療薬やワクチンの提供に向けた新薬開発が世界中で進められているが、その一方で、既存薬などをベースに薬剤候補を探索するドラッグリポジショニングも進められており、今回明らかになったファーマコフォアは、こうした既存薬のリポジショニングに役立つとしているほか、新規の薬候補化合物の探索にも応用できることから、今後は、このファーマコフォアに基づき、シミュレーションと統計的機械学習などの人工知能(AI)や生化学実験を組み合わせたスマート創薬によって、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬候補となる具体的な化合物探索を目指していくとしている。