三菱重工業(MHI)は2020年7月21日、アラブ首長国連邦(UAE)の火星探査機「ホープ」を搭載した、H-IIAロケット42号機を打ち上げた。約57分後、探査機を予定どおりの軌道に投入し、打ち上げは成功した。

ホープはUAE、また中東・アラブ諸国にとっても初の惑星探査ミッションとなる。火星には来年2月に到着する予定で、火星の周囲を回りながら、大気と気候にまつわる謎の解明に挑む。

  • H-IIA 42号機

    UAEの火星探査機ホープを搭載した、H-IIAロケット42号機の打ち上げの様子 (提供:三菱重工)

ロケットは日本時間7月21日6時58分14秒、鹿児島県種子島にある種子島宇宙センターの吉信第1射点から離昇した。ロケットはブースターや1段目などを切り離しながら順調に飛行し、約57分後の7時55分10秒にホープを予定どおりの軌道に投入した。

打ち上げは当初、今月15日に予定されていたが、悪天候のため、今日へ延期となった。

今回の打ち上げで、H-IIAロケットは42機目となり、6号機の失敗を除いてすべて成功し、成功率は約97.6%となった。また、7号機以降はすべて連続で成功している。

三菱重工の打ち上げ輸送サービスにおいて、海外顧客の衛星(宇宙機)を打ち上げたのはこれが4機目となる。またUAEの衛星は、2018年に打ち上げた「ハリーファサット(KhalifaSat)」に続く2機目の打ち上げとなった。

ホープのプロジェクト・ディレクターを務めるオムラン・シャラフ氏は、打ち上げに三菱重工を選んだ理由について、「複数社と比較検討し、実績や信頼性、価格面など総合的な観点から、最も優れていて、また私たちの要求に合致したのが三菱重工でした」と語っている。

  • H-IIA 42号機

    ホープを載せて飛翔するH-IIAロケット42号機 (提供:三菱重工)

火星探査機「ホープ」とは?

ホープ(Hope)は、UAEのドバイ政府宇宙機関であるムハンマド・ビン・ラシード宇宙センター(MBRSC)が開発した火星探査機である。探査機はまた、「エミレーツ・マーズ・ミッション(Emirates Mars Mission)」や、 アラビア語で「希望(Hope)」を意味する「アル・アマル(Al-Amal)」といった名前でも呼ばれる。

ホープは直径は2.37m、高さ2.90m、太陽電池パドル展開時の翼長は約8mで、打ち上げ時の質量は約1.35tになる。

ホープの目的について、MBRSCでは大きく3つのテーマを定めている。

  1. 火星の下層大気の特徴を把握し、気候力学や火星全体の天気について理解する
  2. 火星大気の上層と下層がどのように相互作用しているのか、またそれによる大気の散逸がどのように起こっているのかを理解する
  3. 上層大気中の水素と酸素の構造と変動を調べ、なぜ大気の散逸が起こっているのかを理解する

そして、これらの目標を実現するため、探査機には3つの観測機器を搭載している。

  • EXI(Emirates eXploration Imager)……高い分解能で可視画像を撮影する撮像装置。また、下層大気の水氷やオゾンの分布も測定する
  • EMIRS(Emirates Mars Infrared Spectrometer)……赤外線を使い、大気の温度や、氷や水蒸気、塵を探る
  • EMUS(Emirates Mars Ultraviolet Spectrometer)……紫外線を使い、熱圏中の一酸化炭素と酸素の分布や、火星の外気圏中の酸素と水素の分布を調べる

これらの機器は、UAEのほか、米国のコロラド大学やアリゾナ州立大学などが共同で開発した。

ホープが火星大気に焦点を当てた観測を行う理由について、シャラフ氏は「国際的なサイエンスのコミュニティとの緻密な議論の結果、将来性や国際的なサイエンスへの貢献といった観点から、大気を理解するミッションを行うことにしました」と語る。

また、「これまでも、他国の探査機によって同様の観測が行われたことはありましたが、1年中を通し、季節性の変化まで捉えようとしたものはありませんでした。ホープによる観測で、火星大気の全体像を掴みたいと思います」と語った。

ホープは現在、火星に向かって飛ぶ軌道に乗っており、今後徐々に火星に接近。約7か月後の2021年2月に、火星を回る周回軌道に入る。その後は観測機器などの確認を行いつつ、3月には観測を行うための、近火点高度約2万km、遠火点約4万3000km、軌道傾斜角25度の軌道に乗り移る。そして、4月から本格的な観測を実施。同年9月には科学データの公開、共有が始められるという。ミッション期間は2023~2025年ごろまで予定されている。

UAEはこれまで、韓国などと共同で地球観測衛星を開発したり、また衛星の自主製造に向けた訓練を受けたりといった取り組みを続けてきた。惑星探査ミッションは今回が初めてであり、また中東・アラブ諸国にとっても初となる。

UAEは117年までに火星に都市を建設するプロジェクトも進めており、ホープはその先駆けという意義ももつ。また、宇宙開発におけるUAEとドバイの地位を確立するとともに、宇宙ビジネスなどの経済活動に結びつける狙いもある。

さらに、2021年はUAEの建国50周年にあたることから、ホープは記念碑的な意味合いももっている。

  • H-IIA 42号機

    ホープの想像図 (提供:MBRSC)

参考文献

H-IIAロケット42号機打上げライブ中継 / Live streaming for the launch of H-IIA Launch Vehicle No.42 - YouTube
About EMM | Emirates Mars Mission
Instruments | Emirates Mars Mission
【放送予定】2020.07.20 H-2Aロケット42号機 UAEホープ打上げ / Live streaming about H-2A Rocket F42 UAE Mars probe HOPE Launch | NVS-ネコビデオ ビジュアル ソリューションズ-