野村総合研究所はこのほど、「ポスト・コロナのテクノロジーロードマップ」というタイトルで、メディアフォーラムを開催した。緊急事態宣言は解除されたが、新型コロナウイルスは完全に消滅したわけではなく、これからも感染防止を意識した生活を送る必要がある。
今回のフォーラムでは、コロナ禍の企業・消費者が、どのように新たな行動様式を得て、社会のニューノーマル(ニューノーマル)が生活に定着していくのか、ポスト・コロナのテクノロジーロードマップの概観が紹介された。
DX生産革新本部 IT基盤技術戦略室 室長/上席研究員の城田真琴氏が、デジタル・ニューノーマルに向けて、注目すべき技術について説明した。
デジタル・ニューノーマルとは?
城田氏は、新型コロナウイルスの感染を防止するためにとられた主な対策として、「基本的感染対策」「3密回避」「ロックダウン/緊急事態宣言」を挙げた。こうした対策の下、企業や消費者は、リモートワーク、オンライン授業、非対面営業、オンライン診察、VRショッピング、非接触決済などの新たな活動を始めた。
そして、緊急事態宣言が解除された今、日常的な感染対策に加え、新たな生活様式や働き方が求められるようになっており、これらはデジタル技術で実現されている。こうした状況を、同社では「デジタル・ニューノーマル」と定義している。
城田氏は、新型コロナ対策として用いられるデジタル技術はオンライン向けとオフライン向けに分けられると説明した。さらに、同氏はこれらの技術を「リモートワークを円滑に進めるための技術」「Stay at Homeでの日常生活を支援したり、快適にしたりする技術」「実世界でウイルス感染を防止する技術」に分けて説明した。
リモートワークを円滑に進めるための技術とは?
ビデオ会議「Zoom」の1日当たりのミーティングの参加者は今年4月には3億人を突破しており、城田氏は「リモートワークは今後も拡大すると考えられ、その結果、今後のオフィスの在り方、さらには不動産の需要にも大きな影響を与える」と指摘した。
「リモートワークを円滑に進めるための技術」の1つとして、非対面営業システムが紹介された。非対面営業システムはWebで資料共有やデモが可能であり、一部のシステムは、地図の共有や書き込み、カメラの遠隔操作、遠隔からのオンラインフォームの記入も可能だという。以前は、書類は後日郵送という形が多かったが、リモートで契約書の入力までできるようになることで、商談をスピーディに完結することが可能になる。城田氏は、「非対面営業システムはITに詳しい人ばかりが使うものではないので、相手と簡単に接続できることが重視される」と語った。
もう1点、事務職の在宅勤務において、ボトルネックとされているのが「紙とハンコ」だ。これを解消するデジタル技術が、電子署名・電子契約システムとなる。リモートの商談では、名刺交換も課題となっていたが、オンラインの名刺システムなど、新たなソリューションが登場している。
城田氏は、今後の課題として、ビデオ会議では遠隔地にいる相手の反応がわかりづらいことを挙げた。この課題を解決するのが、感情認識技術だ。音声をベースとした感情認識に加え、近年は映像を用いた勘定認識技術が進化しているという。
Stay at Homeでの日常生活を支援する技術とは?
さまざまな調査でも明らかになっているが、新型コロナウイルスの感染拡大により、Eコマースの需要が高まっている。そこで、Eコマースの販売を促進するため、新たな技術が開発されている。
その1つが「試着」を実現する技術だ。 米国のアイウェアブランドのWarby Parkerは、3Dによって眼鏡をアプリで試着できる「ヴァーチャル・トライ・オン」というシステムを開発。資生堂はバ―チャルでポイントメイクをシミュレーションできる「ワタシプラス カラーシミュレーション」を提供している。
Eコマースにおいては、ライブ配信型のEコマース「ライブコマース」も注目を集めている。アリババグループの「タオバオ」は2016年にオプション機能として、ライブコマース「タオバオライブ」をオプションとして提供を開始したが、2020年2月に「タオバオライブ」を利用した業者数は1月に比べて719%増だったという。
城田氏によると、ライブコマースは視聴者と双方向のやり取りが可能である点でカスタマーエクスピリエンスに優れており、テレビショッピングに比べて低コストで配信可能だという。
そのほか、Stay Homeを支えるデジタル技術としては、自動運転車、コンタクトセンターの自動化、オンラインフィットネス、オンライン診療が紹介された。日本では、新型コロナウイルス対策の時限装置として、初診からオンライン診療を受けることが可能になったほか、オンラインで服薬指導も受けられるようになった。
実世界でウイルス感染を予防する技術とは?
実世界でウイルス感染を予防する技術としては、ソーシャルディスタンスを確保するための仕組みが紹介された。Amazonは、倉庫内で働く従業員のソーシャルディスタンスをフィードバックする仕組み「Distance Assistant」を開発し、オープンソースとして公開予定だという。
決済においても、キャッシュレス決済の上を行く、決済行為自体がない「インビジブル・ペイメント(見えない決済)」が注目を集めている。例えば、Uberの支払いは、乗車後にその場で決済を行う必要がない点で画期と言える。また、Barclaysの「Dine + Dish」は、レストランにUberのコンセプトを適用したもので、アプリに登録済みのクレジットカードから料金が支払われるので、レストランの利用者は店内で支払いをすることなく、退店することができるという。
また、タッチレスインタフェースも感染防止に役立つ技術と言える。例えば、日本のフジテックは今年4月、赤外線ビーム式のセンサーを用いて操作盤に手をかざすことで、エレベータの予備登録や行先会登録が可能な「非接触呼び登録」機能の提供を開始した。
デジタル・ニューノーマルから生まれる課題にも着目
城田氏は、こうしたデジタル・ニューノーマルを実現するにあたっては、技術の壁を越えられたとしても、最終的には「体験の壁」を超えられない可能性があると指摘した。具体的には、デジタル・ニューノーマルの実現に向けては、「技術の壁」「費用の壁」「法の壁」「文化の壁」「体験の壁」の5つの壁があるという。
そして、ポスト・コロナのテクノロジーは「非対面」「シャットダウン」「コンタクトレス」をキーワードに高度化していくことが示された。城田氏は、新型コロナウイルスが登場する前には予想しなかった形でデジタル・ニューノーマルが定着する場合、新たな検討課題が出現する可能性についても言及した。例えば、オンライン〇〇がオプションではなく、標準のサービスとなった場合の料金設定をどうするかということが問題となってくるという。