AI活用について取り組む企業が増えてきているが、実際に業務に適用し、成功を収めている企業はそれほど多くない。そうした中、今後、企業はAIをどう活用すればいいのか、またAI活用についての注意すべき点はどこにあるのか、AI活用に関して日本を含む世界12カ国16業界にわたる企業の経営幹部1500人への調査レポート「AI: Built to Scale(ビジネス全体でAIを活用する)」を作成しているアクセンチュアに聞いた。

なお、取材はWeb会議によって行った。

「現在、多くの企業がAI活用について考えている中で問題だと感じるのは、これからのイノベーションの源泉としてAIを捉えてはいますが、すでにビジネス価値を生み出すものになっていることが理解されていないことです。実証実験やPoCに取り組むものの、その後に続く実用化への道筋がイメージできていないのが問題でしょう」と語るのは、アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 AIグループ日本統括 兼 アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京共同統括 マネジング・ディレクターの保科学世氏だ。

AIをビジネス活用するための青写真やロードマップといったものを持たないままPoCに取り組んでしまうことで、PoC自体の失敗や成功から次へ進むことができずにいる企業が少なくないという。その要因としてあげられたのが、従来型システム導入とAIシステム導入の違いを理解しきれていないことだ。

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 AIグループ日本統括 兼 アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京共同統括 マネジング・ディレクター 保科学世氏

「AIのシステム導入では、従来型のものと違ってアジリティ(機敏であること)やフレキシビリティ(柔軟であること)が大切です。アイデアを具現化するべきなのか、捨てるべきなのかという判断を迅速に行っていく必要がありますが、経営者の多くはまだそういうマインドには至ってはいませんし、AIを本格導入するためにはどう進めるべきかロードマップも持っていません。さらに、まったく新しい技術であるAIを今までのシステム構築手法で導入しようとしていることも問題です。ゼロからAIを開発するという手法を採りがちですが、AI技術は再利用できるものが多くあります。特にビジネス全体にわたる本格導入を成功させるためには既成のものをカスタマイズし、素早く部分的にでも活用して、AIの価値が本当にあるのかないのか確認していくのが大事です」と保科氏は語った。

AIの本格導入を成功させる16%のトップ企業は「小さなチャレンジを2倍行っている」

「AI: Built to Scale」では、グローバル全体では84%の経営幹部がAIの幅広い活用はビジネス戦略に不可欠であると考えており、日本企業でも77%の経営幹部はAIをビジネス全体に積極導入しなければ、2025年までに著しく業績が低下するリスクがあると考えているという結果が出ている。一方で、試験導入ではない本格導入に備えた組織の実現ができていると答えた企業は、グローバル全体で16%しかない。

  • グローバル全体では84%の経営幹部がAIの幅広い活用はビジネス戦略に不可欠であると考えている(左上)。日本企業でも77%の経営幹部はAIをビジネス全体に積極導入しなければ、2025年までに著しく業績が低下するリスクがあると考えている(中央下)(「AI: Built to Scale」より)

「16%のトップ企業は他の企業に比べて2倍近くの実証実験を実施しています。また、はるかに速いペースでAIの本格導入を進めています。こういう言い方をすると大きなコストがかかると思うかもしれませんが、必ずしもお金をかけることがAIに注力をするということではありません。実は、トップ企業が実証実験や本格導入に至る投資レベルは他の企業に比べて低いのです」と保科氏。

大きな投資を必要とする大規模な実証実験ではなく、小規模なチャレンジを数多く行った上で上手くいくものを見つけ、実現へ向けて踏み出しているというのだ。

「トップ企業は、他の企業に比べてAIの投資に3倍近い投資対効果を得ています。これは重要な示唆だと思っています」と保科氏は事前の投資額が大きくなるばかりではないだけでなく、得られる効果も大きいことを語った。