千葉大学は3月11日、可視光を照射したヨウ素含有分子において「S0→Tn」という電子遷移の機構が実際に進行していること、ならびにヨウ素含有分子以外の重原子含有分子でも、一見したところ吸収できないはずの光で直接的なS0→Tn遷移が光反応により起きることを証明したと発表した。
同成果は、同大学大学院薬学研究院の根本哲宏 教授および中島誠也 助教らによるもの。詳細は独化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に掲載された。
光、特に可視光を利用した物質創製技術が注目され、研究開発が盛んに進められているが、近年、重原子の1つであるヨウ素を含有する分子が、本来分子が吸収できないはずの可視光によって光反応を起こしているということが謎として残されていた。
光反応のメカニズムとして、これまでの教科書的な理解では、分子が光を吸収すると、原子核の周りの電子が移動し、分子の状態は吸収前の基底状態「S0」から、吸収後にはS0→Sn→S1(励起一重項状態)→T1(励起三重項状態)という順序で遷移し、T1の状態から光反応が進行することが知られていた。
研究グループは、1960年代から観察されていたものの、一般的なS0→Snに比べ、進行しにくいことから、見過ごされてきた遷移経路である直接S0からTnへの遷移(直接「S0→Tn」遷移)に注目し、ヨウ素含有分子が可視光によって光反応を起こす背景には、「S0→Tn」遷移が働いているという仮説を立てて研究を開始。ヨウ素含有分子に対する光の物理的特性の計測を行った結果、S0→Tn遷移が進行していることを実証することに成功したという。
また、S0→Tn遷移を引き起こす光が、一見すると分子が吸収できない光のように観測されることから、ヨウ素含有分子以外の重原子含有分子でも調査を実施。その結果、臭素やビスマスといった重原子含有分子においても、一見吸収できない光をエネルギー源として、光反応に特有なラジカル反応が進行することが判明したという。
今回の成果について研究グループでは、教科書の内容を刷新する画期的な発見であるとともに、反応の制御が難しい紫外線ではなく可視光による「直接S0→Tn遷移」を用いて反応条件をコントロールできるようになるため、さまざまな研究分野において新たな分子デザインや反応デザインにつながることが期待されるとしている。