マイクロプラスチックとはなにか?
日常生活の至る所で活用されているプラスチックだが、近年、海洋汚染への影響が懸念されるようになってもいる。その最たるものの1つが、「マイクロプラスチック」の存在で、2015年のG7でも取り上げられるなど、注目が高まっている。
マイクロプラスチックは、一般的に洗顔料や化粧品などのビーズ状のプラスチック原料(スクラブ剤)などを元とする一次製造起源のものと、プラ容器などが劣化などにより細かくなった二次製造起源のものに分けられるが、いずれも5mm~1μm程度の微小なプラスチック粒子を指す(これよりも小さいサイズはナノプラスチックと呼ばれる)。
こうしたマイクロプラスチックが海洋を漂うと、魚介類、プランクトン、サンゴ、鳥類など海を基盤として生活する生物が摂食。もちろん、より大きなサイズのマクロプラスチックもそうした生物が摂食することも多いが、マイクロプラスチックは、小さいため、それを取り込む生物の種類がより多くなる。こうしたプラスチックには添加剤が含まれており、それが生物へ移行するリスクや、海水中の有機汚染物質のマイクロプラスチックによる吸着、そしてそれらが生物の内部で濃縮されていくリスクなどが考えられており、人間も一般的に、年間で5万2000個のマイクロプラスチック粒子を取り込んでいるともいわれている。
ここで大きな問題になるのは、石油由来のプラスチックは劣化して微粒子になったとしても、それは分解ではなく、細かくなっただけで、残存し続けるということだ。これらを摂取したヒトや動物に対する影響に対してもよくわかっていないことが多いのだが、その背景には、科学的な確かなマイクロプラスチックの測定手法が確立されていない、という点が挙げられる。
マイクロプラスチック測定の課題
一般的にどういったマイクロプラスチックがどの程度含まれているか、ということを調べるにはFTIR(フーリエ変換赤外分光光度計)が用いられてきた。
しかし、FTIRを用いた手法では微粒子1個につき、1分以上の時間がかかっていた。さまざまな河川や海域などから採取された膨大なサンプルに対し、それを測定するための時間も膨大になり、研究を進めるための足かせとなってきた。
例えば、スクラブ剤として利用されているビーズ状のマイクロプラスチックは、パーソナルケア製品だと100gあたり、およそ8000個~184万個含まれていると言われており、これらが直接水道に流され、河川に流出することとなる。もし、この184万個を測定しようとすれば、184万分、実に3万時間超、日数にすれば1200日を超す時間が必要となる。FTIRを使って、さまざまなサンプルを調べるというのにも限界があったというわけである。
FTIRからLIDRへ
マイクロプラスチックに対する研究が世界的に注目を集めるようになり、FTIRで測定しようにも時間的な課題が出てきたことを受けアジレント・テクノロジーでは、新たな測定器「Agilent 8700 LDIR ケミカルイメージングシステム」の提案を開始したという。
LDIRはLaser Direct InfraRedの略で、独自開発した量子カスケードレーザー(QCL)を採用することで、高速かつ高精度で物質特定を可能としたもので、最小ピクセル分解能は1μmの反射モードと0.25μmのATR(減衰全反射)モードを選択することが可能だという。
同分析装置の肝となるQCLは、一般的なQCLと異なり、指紋領域の全域をカバーできるほどの性能であり、かつ液体窒素不要の熱電冷却型シングルポイントMCT検出器と組み合わせることで、点ではなく面に対し、高精度かつ高速で測定を行うことを可能にしたという。
そのため、同社によれば、10mm×10mmの領域をピクセルサイズ5μmでスキャンする場合の所要時間は4分だとしている(その後、検出された粒子を対象に、それぞれの IRスペクトルが採取される)。
ソフトウェアとしても、それぞれのプラスチックごとにライブラリが存在しており、それと対象物を比較することで、同定を自動的に行えるため、手軽に粒子数やサイズ分布などのデータを取得することができるような工夫が施されている。
なお、同分析装置は定価で3800万円台というが、アジレント・テクノロジーの営業本部 市場開発グループ スペクトロスコピー担当 マーケティングマネージャーである遠藤政彦氏によれば、「現在、環境系の研究者を中心に徐々に利用者が増えてきている」とのことで、国内外でサンプル数が多い主要研究機関などを中心に活用が進んでおり、日本でも積極的に活用してもらうことで、マイクロプラスチック研究の進展をサポートしていければ、としている。