クラウドコンテンツ管理の米Boxは10月に米サンフランシスコで年次カンファレンス「BoxWorks 2019」を開催し、セキュリティ、ビジネスプロセス、他のアプリケーションとの統合という今後の方向性を明確に示した。

会期中、同社の共同創業者兼CEO、Aaron Levie氏が記者グループの質問に答えた。今後の戦略、競合などについてLevie氏のコメントをまとめる。

3つのフォーカス

Levie氏はまず、今後の3つの注力分野として、次の3つを挙げた。

(1)セキュリティと規制遵守(コンプライアンス)
(2)社内・外のコラボレーションとワークフロー
(3)他のSaaSやシステムとの統合

(1)はセキュリティ機能「Box Shield」、(2)は再構築したワークフロー自動化「Box Relay」、(3)は米Slackなど各社と進めるAPIを利用した統合だ。

中でもBox Shieldは「ブレークスルー」とLevie氏。「クラウドにおけるデータセキュリティの将来を見せる」と意気込む。

「セキュリティはさまざまなアプローチがある。ファイルをクラウドにアップロードする。われわれのインフラは暗号化などの安全対策を利用でき、概して攻撃が難しい。これが中核のセキュリティだ。過去14年間、中核部分のセキュリティはBoxにとって重点分野だった」とLevie氏。Shieldの重要性は、保存以外のドキュメントの利用においても安全対策を講じることができる点にある。

「情報を共有する相手を管理できる。また、不正アクセスされた時にデータ上で異常な行動があればそれを検出できる。このようにセキュリティを製品に組み込み、コンテンツやデータを保護する」「Box ShieldはBoxにあるコンテンツを保護するだけでなく、ビジネスプロセスも保護できる。ビジネスプロセスが顧客や取引先にも拡大しているが、ここでのセキュリティはこれまで担保されていなかった。Box Shieldにより、コラボレーションを安全にできる製品としてBoxが選ばれることになる」(Levie氏)

3つのフォーカスが意味するものは何か。Levie氏は次のように述べる。

「Boxは移行期にある。これまでは単一の製品を販売してきたが、今後はBoxを使ってビジネスプロセスを変化させる機能も提供する」

今後のフォーカスして、生産性を超えて、ERPや人事と言った分野でも主要アプリケーションとの連携や統合を図っていくという。

  • Box CEO、Aaron Levie氏

Microsoft、Googleとは競合と提携

ここ数年テーマとしている"Future of work"(将来の働き方)は多くのベンダーも掲げるが、Boxとの違いについて次のように語った。

「"将来の働き方"という点で、Dropbox、Google、Microsoftなど、どこも同じようなことを言っているかもしれない。リアルタイムのコラボレーション、どこからでもデータにアクセスする、さまざまなデバイスで仕事ができる--ビジョンは共通しているかもしれない。差別化になるのは、われわれが提供できるものだ。われわれはセキュリティと規制遵守にフォーカスしており、ワークフロー自動化、プラットフォームなどでも取り組みを進めている。これらを機能として提供し始めている」(Levie氏)

中でもGoogle、Microsoftはストレージでは競合になるが、G SuiteやOffice 365との統合も進めており、競合と提携に関係にある。ここでは、ベストオブブリードが強みだ。

「Zoom、Slack、Okta、Adobe、PagerDuty、Atlassianなどのアプリベンダーとの協業を進めており、今後も継続していく。よく使われる”共通クラウド”が、将来の仕事や新しい生産性として台頭している」と述べた。

Boxはコラボレーションを中心とした「Digital Business Suite」、ビジネスプロセスの「Digital Workplace Suite」と2種類のスイートを世界展開する(日本ではこれから展開予定)。

Boxが進めるスイート戦略については、「これまではコアの製品があったが、Box Shield、Box Relay、Box Governanceなどアドオン製品、開発者向けのプラットフォームなどが揃ってきた。顧客がどのようにして効率の良い方法でBoxの製品を購入し、利用するか。ここでスイートは重要になる」と背景を説明する。スイートは今後営業面で注力していくとのことだ。

変わらないコアバリュー

ここ数年強調する”ベストオブブリード”については、機運が高まってきたとみる。

「14年前にBoxをスタートした時、Box一社しかいなかった。だがこれが将来であることは明らかだった」とLevie氏、「業務外では簡単でシンプルで使いやすいコンシューマーツールを使っているのに、仕事に行くとインストールされたソフトウェアにVPNを使ってログインする--これは意味をなさない」と続ける。

「このところコンシューマーグレードのエンプラソフトウェア企業が揃っており、エンドユーザー主導のボトムアップがある。この動きは大きくなっている。Slack、Zoom、Atlassianなどが登場し、この動きに貢献した。シンプルで簡単に使えるモダンなソフトウェアがエンタープライズにもやってきており、Boxはこれらがすべて一緒に使えるようにしたいと思っている」(Levie氏)

そして、「エンタープライズは現在、新しい段階にある。相互運用して顧客がシームレスな体験を得られるように、エコシステムができつつある」と展望した。

最後にLevie氏はこれまでの14年を振り返り、次のように語る。

「創業した時はファイルを保存するだけだった。現在Boxは、企業の内と外で安全に作業できるようにすることで、人々の仕事をエンパワーしている」

顧客もライフサイエンスや政府などを取り込むことに成功しているという。

一方で中核となるビジョンは変わらない。

「2004年から2005年始めにかけて、最初のビジネスモデルの構想をした。いくつか単語は変わっているが、今もほぼ同じだ。情報にアクセス、保存、共有する新しい方法が必要というもので、セキュリティ、ワークフローなどはこれを土台としたものだ」とLevie氏。

当時はiPhone登場前、エンタープライズを取り巻く環境は様変わりしたが「やりたかったことはずっと同じ」と信念を強調した。