生産された製品が、実際に現場で利用され、その利用データを収集し、それを製造メーカーが次世代製品の開発などに活用することなどを目指す「デジタルツイン」。設計から製造、サポートまですべてのフローをデジタル上で構築することが求められるこうした取り組みの実現に、プラットフォームを活用することで対応を図ろうという動きを見せているのがSiemens Digital Industries Software(DISW、シーメンス)である。

同社が語るプラットフォームの中核を担うのがシミュレーションプラットフォーム「Simcenter」となる。「Simcenterは顧客の未来の課題に対する解決策に向けたニーズに対応する機能を長年にわたって継続的に取り込んできた。主なものとしてはメカトロニクスとエレクトロニクスの連携、複合素材の活用、システムonシステムのシステム同士の相互通信などだが、そのポートフォリオは、CAE、CFD、テスティングなど、開発におけるすべての段階での検証を可能にするものであり、これによりユニークな存在となっている」と、Siemens DISWのSimcenter ポートフォリオ担当シニア・バイスプレジデントを務めるヤン・ルリダン(Jan Leuridan)氏はSimcenterの特徴を説明する。

  • ヤン・ルリダン

    2019年7月10-11日にかけて都内で開催された年次ユーザーカンファレンス「Realize LIVE Japan 2019」のメディアブリーフィングでSimcenterの説明を行うヤン・ルリダン氏

そのSimcenterの今後について同氏は4つの方向性を示す。1つ目は、「スコープの拡大によるさまざまなマルチフィジクスへの対応」、2つ目は「より早い段階での気づき、洞察の提供」、3つ目は「エンタープライズのソリューションの一部として活用されるということ」、そして4つ目が「より効率的な作業の実現」といったものとなっている。これにより例えば、ハイブリッド車や電気自動車に搭載されるバッテリーシステムの開発においては、シミュレーションによるバッテリーセルの開発サポートのほか、セルを集積したバッテリーパックの熱解析などを含めた開発サポート、バッテリーシステムそのものの冷却システム開発、そして実際にクルマに搭載された状態でのパフォーマンス測定といったことを一気に行うことができるようになる。同氏も「こうしたことができるのはシーメンスだけ」と自社の取り組みを評する。

  • シーメンス
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  • Simcenterの4つの方向性とバッテリシステム開発の例 (資料提供:シーメンス)

こうした取り組みの強化の一環として同社は2019年、Saab MedavのNVH(騒音・振動・ハーシュネス、Noise・Vibration・Harshnessの略)品質テスト、最終工程の品質管理で使われているソリューションを買収。これにより、NVHテストに関する提供物が拡充され、NVHテストのほか、品質管理などでも使われるようになるという。また、シミュレーション結果の評価のためのARやVRの活用といった取り組みも進んでいるとする。

同氏は今後はさらに、MBSE(モデルベースシステムズエンジニアリング)やジェネレーティブデザイン、アディテブマニュファクチャリングなどの活用が進むとみている。特に自動車分野では、自動運転やADASのさらなる機能強化に向けては実車を用いてトライアンドエラーを繰り返すことはできないことから、より高精度なシミュレーションの存在が重要になってくるとする。

また、こうしたシミュレーション技術は、より製品開発から、実際の製品の利用現場での活用に範疇が拡がっていくともする。例えば、自動運転では、センサで車両の周辺状況を感知し、そこから状況を認識し、車体を回避させる、といった判断を瞬時に行う必要があるが、その際に、乗員がいれば、それを考慮した快適な挙動を採る必要がある。その場合、車両の挙動に関するダイナミクスを考慮した判断をしなければいけないわけだが、そこでシミュレーションが重要になってくる。こうしたことができるようになるのがリアルタイムのデジタルツインであるとする。ただし、その実現のためにはエッジ側のパフォーマンスも必然的に高いものに進化していかなければいけないとしており、同社としても、今後も引き続き、半導体レベルの性能向上から車体レベルでの快適な走行の実現まで実行可能なデジタルツイン環境の構築に向けた機能拡充などを図っていくとしていた。

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    実行可能なデジタルツインの実現に向けたSimcenterの取り組みイメージ (資料提供:シーメンス)