ジュニパーネットワークスは7月19日、ミストシステムズ買収による国内ビジネス戦略と「AIドリブンエンタープライズ」向け新製品についての説明会を開催。ミストシステムズのAIエンジンをジュニパー製品に適用していくことや、IEEE 802.11ax (Wi-Fi 6)対応の新製品の国内展開を進めることを発表した。
ミストシステムズは、Wi-Fiネットワークのログを機械学習し、トラブルシューティングの自動化やネットワークパフォーマンスの自動改善を行う無線アクセスポイント(AP)を提供する企業。
提供するAPは、クラウド管理型でワイアレスコントローラ(WLC)が必要なく、APIを使ってさまざまな連携や高度な管理ができることが特徴。また、仮想BLE(Bluetooth Low Energy)を使って位置情報を取得し、ユーザーの場所に応じた最適なネットワークパフォーマンスも提供できる。
説明会ではまず、ジュニパーネットワークス 技術統括本部 本部長 加藤浩明氏が登壇。ジュニパーはAPIを活用したエコシステムの構築でミストと協業していたが、2019年5月にジュニパーによる買収が発表された経緯がある。
加藤氏は買収の意図について「ジュニパーでは『エンジニアリングシンプリシティ』として、ネットワークをすべてシンプル化していくこと、そのためにエンジニアリングを活用することを掲げている。シンプル化は最終的にAIがドライブすると考えており、そこにぴったり合う会社がミストだった。ミストをジュニパーのポートフォリオに組み込むことは、近未来への第一歩を踏み出すうえで非常に重要なものになる」と説明した。
同氏によると、このタイミングでミストを買収した理由には周辺環境が整いつつあったためだという。エンタープライズITの世界でAIを活用する場合、「可視化」「把握」「実行」というフェースがあるという。
可視化はデータの収集や分析、可視化の作業となり、把握はデータ処理や機械学習、問題、パターンの特定、信号化などの作業を指し、実行は意思決定の自動化や改善、インサイトの提供などの作業と位置づけている。
「大量のシステムデータやテレメトリデータが揃い、機械学習やAIのアルゴリズム、プロセッサも普及し、APIも広く活用されるようになった。ジュニパーは製品設計としてオープンを掲げ、第一号機からAPIに対応していた。Junos OSで各種APIをインテグレーションでき、さまざまなツールも提供している。無線から有線までを対象に、AIを可視化、把握、実行分野に適用し、運用の簡易化とユーザー体験の向上が図れると確信している」(加藤氏)
続いて、米Mist Systems 共同創設者 社長兼CEOのスジャイ・ハジェラ(Sujai Hajela)氏が登壇し「AIドリブンエンタープライズ」を実現するメリットや新製品、サービスの詳細について説明した。
スジャイ氏は「接続されるデバイス、利用される帯域、アプリケーションやユーザーの数それぞれが増え続けているのに対し、ITを管理するチームは変わらないままであり、むしろ減っている」と指摘。これは、無線ネットワークのアーキテクチャが15年間変化がないためであり、そこにこそミストが提供するAPの価値があると主張した。
「需要と供給のギャップを埋めるのがAI。インテリジェントなオートメーションにより、ユーザー体験を高めることが重要となる。現在のWi-Fiの課題は、つながらないこと、パフォーマンスが悪いことの2つだ。Wi-Fiは予測可能で、信頼性が高く、測定可能であるべきだ。そこでミストは、これらを定量化した。また、ユーザー体験を定義し、指標を使って向上できるようにした」(スジャイ氏)
ユーザー体験は「AIプリミティブ」と呼ばれる項目で構成し、定義されている。AIプリミティブを構成するのは、接続までの時間、接続数、ローミング、スループット、カバレッジ、キャパシティ、APのアップタイムなどだ。これらデータを2秒間隔で取得し、ユーザーの環境がどのような要因に影響を受けているのかを自動的に判定することで、自動で修正したり、トラブルシューティングの改善案を提示したりするという。
トラブルシューティングの際には、自然言語入力に対応したAIエンジン「Marvis」がバーチャルアシスタントとなり、解決をサポートする。
例えば「過去7日間のある拠点で発生した問題は」などと英語で質問すると、Marvisが「ネットワーク、認証、DHCP、APは問題がなく、無線周波数(RF)にトラブルがあり、クライアントに3つの影響が出ている」といったことをグラフィカルに回答してくれる。また「このオフィスでネットワークに不満を持っているユーザーは」という自然文での問いかけにも「MacBook Airユーザーに不満が強い」といった回答をグラフを図示して返答する。
アクセスポイントなど3つの新製品・サービス
新製品とサービスは3つ紹介された。1つ目は、IEEE 802.11ax (Wi-Fi 6)に対応したAIである「AI for AX」を搭載するAPの新製品「AP43」。現時点で、AX(Wi-Fi6)に対応したAIを搭載するのはAP43のみとなる。
すでに、北米では市場投入しており、国内では今年中にパイロット版を提供する予定だ。スジャイ氏は「AXになるとプラニングの難易度が格段にあがる。マニュアルでもフル活用は難しい。AIを使うことで、RFを最適化し、ユーザー体験を向上させる」という。
2つ目は、クラウドアーキテクチャをキャンパス環境などのオンプレミスに拡張するサービス「Mist Edge」だ。同サービスは、クラウドで管理されているミストのAIエンジンと、ジュニパーがクラウド(マイクロサービスアーキテクチャの)で提供するネットワーク機能を、キャンパスネットワークに拡張。
これにより、ゲストアクセスと企業トラフィックのスプリットトンネリング、AP間トラフィックをオンプレミスでトンネル終端した大規模キャンパスネットワークでのシームレスなローミング、分散拠点や在宅ワーカー向けにVLANの拡張、IoTデバイス向けに動的なトラフィックセグメンテーションなどを可能としている。
3つ目は、ミストのAIを活用した事前対応型のサポートの提供。異常検知機能でサポートにおけるレベル1~2の初期対応をなくし、必要に応じてすみやかにエンジニアによるレベル3対応を提供できるという。
同氏は「ジュニパーと統合することで、ミストのAIを無線から有線のルータ、スイッチから、セキュリティ、WANにまで拡張していく。日本の顧客はこれら機能を包含したAIドリブンエンタープライズを実現できる。ネットワークアーキテクチャは15年間変化がなかった。ミストは次の10年のアーキテクチャを見据え、AIドリブンエンタープライズを推進していく」と述べていた。