2019年4月24日、高エネルギー加速器研究機構(KEK)のフォトンファクトリーにおいて、新設のビームラインとPF-AR(フォトンファクトリー・アドバンスリング)が公開された。
フォトンファクトリーは放射光施設で、国内に9カ所あるうちのひとつとなる。ほぼ光速にまで加速した電子ビームを曲げるときに生じる放射光を利用して、物質を計測するための施設だ。ナノの世界を見るものといった認識でよく、シャープのIGZOパネルの開発に大きく貢献したり、エコタイヤの開発、リチウムイオンバッテリーだけでなく、全固体電池における電子の振る舞いをリアルタイムで計測、身近なところではおいしいチョコレートの開発にも利用された。
フォトンファクトリーの場合は、線形加速器からの電子ビームを周長187mのリング内で回し、複数のビームラインに放射光を提供する。フォトンファクトリーで使用できる光は、極紫外線や軟X線、X線など波長の短い光だ。またPF-ARはPFよりも大型で電子ビームエネルギーが6.5GeVと高く、KEKではPFとPF-ARを計測内容によって使い分けている。
X線はレントゲンでもお世話になっているが、イメージ通り、非破壊で内部を見られるのがまずもっての強みだ。主な手法としては、回折や散乱を利用して試料の原子または分子配列を探ったり、分光を利用して物質の電子状態や化学結合も調べたりもできる。試料に照射することで起きる化学反応を利用して、新しい物質の創成や化学反応の仕組みを調べることも可能だ。といったことから、利用するメーカーは幅広く、また需要も多い。近年のナノなモノづくりには欠かせないものが放射光だ。そのため、仙台に次世代放射光施設の建設も決定した。
具体的な例として紹介された劣化の起点の可視化。電子状態を計測することで、元素の化学状態を判別できるため、炭素強化樹脂(CFRP)や耐環境性セラミックなどの状態把握や二次電池内での電荷移動反応や結晶相変化を時系列で計測するなどで活用されている。また化学状態を知ることができるため、新学術「水惑星の創成」にも活用されており、はやぶさ2が持ち帰るであろう試料の計測も予定されているとのこと。「水惑星の創成」は複数の学術が融合したもので、概念としては重力波検知を基点としたマルチメッセンジャー天文学が分かりやすいかもしれない。
今回公開されたものは、BL-19。走査型X線顕微鏡ビームラインだ。エネルギー可変型2Dイメージングを得意とするもので、複数の試料を効率良く計測できる。2019年5月から共用を開始した。
PF-ARで公開されたものはX線吸収分光顕微鏡。立体的なイメージングを得意とするほか、金属にも対応する機器だ。下記する写真のように試料台が回転するため、連続写真的に立体な内部計測が行なえるため、疲労した物体の内部構造を探ることもできる。
モノづくりがナノレベルになってきた昨今、非破壊計測だけでなく、リアルタイム、または立体的に状態を知ることは、とても重要だ。古くから産業利用されている施設であるため、日常生活への恩恵も大きく、フォトンファクトリーは需要に応じて機器を更新、追加し続けている。もっぱらKEKというとBelle II実験が話題に挙がってしまうのだが、フォトンファクトリーもチェックしてみよう。