年次有給休暇5日間の取得義務化にどう対応する?
2019年4月から段階的に施行が開始された「働き方改革関連法」。これは、以下の8つの法律の改正を行うための法律の通称だ。
- 労働基準法
- 労働安全衛生法
- 労働時間等の設定の改善に関する特別措置法
- じん肺法
- 雇用対策法
- 労働契約法
- 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律
- 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
大企業と中小企業で対応すべきタイミングが異なるものもある中、まず一斉適用となったのが、労働基準法で定めている年次有給休暇の5日間の取得義務化だ。新たな法律への対応が必須となった現在、企業はどのような状況にあるのだろうか。
「2月に関連セミナーを開催したのですが、満席になって驚きました。それだけ注目されているということです。中小企業は人手不足の中、ビジネスに支障を来さないようにどうやって従業員を休ませようかと悩んでいますが、大企業は人数が多い分漏れが出たら困るということを心配しています。罰則ありといってもいきなり罰則を適用されることは考えにくいところですが、是正勧告を受ける可能性は高そうです」と語るのは、大槻経営労務管理事務所 代表社員の大槻智之氏だ。
今回、労働基準法の見直しにより、有給休暇を付与した日から1年の間に、年次有給休暇を10日以上付与される労働者全員に5日の有給休暇を取得させなければならなくなった。漏れがあった場合、1人当たり30万円の罰金が科せられることになっている。従業員数が多くても1人も漏れが出せないこと、人数によって罰金が積み上がる形式であることに厳しさが感じられるが、企業にしてみれば、実際に罰金が科せられる前段階である是正勧告を受けるだけでもダメージが大きいだろう。
「企業にとっては悩ましい部分の多い法律ですが、労働者にとっては労働環境が改善される場合がほとんどではないでしょうか。ただし、時季指定で有給休暇を消化させられることになった場合、自由に取得できたはずの休暇が押しつけられたと感じる人はいるでしょう。また、10日しか有給休暇のない新人の場合、5日を時季指定で消化させられたら、残りは5日。体調不良時に利用したいと考えると、自分のためにはもう取得できないという声もあります」と大槻氏。さまざまな企業と向き合う中、企業側はもちろん、労働者も戸惑う様子が見えているようだ。
独自の特別休暇や夏期休暇を有給休暇にするのは難しい?
中小企業やサービス業が人手不足の中、十分に休ませることはできるのかという視点からの不安はよく聞かれるが、大企業は別の悩みを抱えていることが多いという。
「大企業の中には、独自に休暇制度を作って既に十分な休みを取らせている企業も少なくありません。自己啓発休暇などを設けていたり、傷病休暇を1カ月取得できるようにしていたりといった具合です。そうした休暇を使った上で5日の有給休暇もとなると、休みが多すぎてしまいます」と大槻氏は語る。
これまで企業内で存在した各種休暇の扱いによるが、単純に特別な休暇をとりやめて有給休暇で日数だけ補おうというやり方は難しいようだ。
「すでに権利として存在している特別休暇を単純に取りやめるというのは、不利益変更になる可能性があります。苦肉の策ではありますが、運用ルールを変更して対応する会社もありますね。各種特別休暇を使う前に、まずは有給休暇を利用するというようなルールを追加したのです」と大槻氏。
例えば、有給の傷病休暇が既にあった場合、傷病休暇を取得する前に、年次有給休暇を5日まで(すでに5日消化している場合は除く)消化してから利用するというルールに変更することで、不利益を最小限に抑えた形に持っていくことができそうだ。
さらに、大槻氏は以下のようなアドバイスをくれた。
「夏季休暇などは、就業規則の書き方がポイントです。夏季休暇として何日を有給で与えるということになっていたら、その休暇は年次有給休暇に数えることはできません。しかし、『夏季休暇を与える』というだけで日数が特定されていない書き方でれば、毎年カレンダーなどにより休暇日数が変わっていた可能性があります。こうしたケースであれば、月曜日から水曜日までを夏季休暇とし、木曜日と金曜日は年次有給休暇奨励日として消化を促進する企業も登場しそうです。また、夏に休んでもいいけれど無給という書き方なら、そのすべてを有給休暇奨励日として対応することも考えられます。就業規則は企業によって異なるので、この機会に内容を確認してみるとよいでしょう」