ウエスタンデジタルが国内ストレージシステム市場への参入を発表した。これまでグローバルでは、データセンターシステム(DCS)グループと呼ばれるストレージ関連ビジネスを展開してきたが、1月に日本法人にもDCS部隊を新設。3月には新製品のNVMeオールフラッシュアレイとハイブリッドフラッシュアレイを投入することを発表した。

そこで、グローバルでDCS事業の開発担当バイスプレジデントを務めているトニー・チャン氏と、日本におけるエンタープライズビジネスをリードしている河野通明氏に戦略を聞いた。

ストレージシステム市場への参入を発表されましたが、あらためてその狙いを教えてください。

河野氏:「シリコンからシステムまで」というコンセプトでデータにかかわることすべてにタッチしていくということです。デバイスベンダーとしてのビジネス戦略は大きく3つのパターンがあります。1つめは、従来のデバイスベンダーの戦略で、さまざまなハードウェアメーカーにそれぞれデバイスを提供するもの。2つめは特定のベンダーに深く関与して、そのベンダーのストレージシステムに向けにデバイスを提供するもの。ある意味、互恵関係のもと一心同体でビジネスをすすめるパターンです。3つめは、われわれが取り組もうとしているもので、自社製品を使って、シリコンからシステムまで垂直統合型のモデルで提供していくものです。ここまで踏み込める環境を持っているベンダーはけっして多くはありません。われわれの特徴が最も生かせる部分です。

  • サンディスク(ウエスタンデジタルジャパン) エンタープライズビジネス担当シニア・ディレクター河野通明氏

自社でストレージシステムを提供することで、これまで供給先であったストレージベンダーにとっては競合にもなりえます。デバイスの事業に悪影響は及ぼさないのでしょうか?

河野氏:そこは共存できると思っています。競合してわれわれが勝つ場合もでてくるでしょうが、それはわれわれの持つ技術の優位性を知っていただく機会だととらえています。ビジネスが佳境に入れば入るほど問題になるケースも増えると思います。ただ、まずは問題にしてもらえるほどの市場を作る必要があります。いまビジネスの影響を心配することは、売上拡大にともなって税金が増えることを懸念するようなものです。企業としての全体のプレゼンスを上げることが大事です。

エッジコンピューティングもビジネスの対象にするとのことですが、エッジといっても、スマートフォンから車載用ECU、製造ラインのエッジサーバ、スマートシティ向け装置など多岐にわたります。具体的にどこまでを指すのでしょうか?

チャン氏:まず、エッジというのは、エンドポイントとコアをつなぐ部分のことを指していることをご理解ください。スマートフォンのセンサーや、車載用ECUのセンサーなどがエンドポイントで、それらから収集されるデータを処理して、コアにつなぐのがエッジの役割です。

エッジは、遠くにあるデータセンターの基地局のようなものです。距離があるとデータをすばやく飛ばしてデータセンターで処理することが難しくなります。そこで特定の処理をエッジ側で処理することで、データセンターとのやりとりに時間がかかるという問題を解消します。また、帯域をどう確保するか、セキュリティや個人情報をどう保護するのか、どう自動化を進めていくのかも重要です。

そのため、エッジにおいてはストレージデバイスそのものというより、処理を高速に安全に行うためのソフトウェアが重要になります。

  • 米ウエスタンデジタル データセンターシステムビジネスユニット開発担当、バイス・プレジデント トニー・チャン氏

例えば、自動運転車向けにストレージデバイスだけでなく、エッジ向けストレージを提供していくということでしょうか?

チャン氏:自動運転車から得られるデータは1台につき1日4TBと言われます。また、エンドポイントから生成されるデータの量は2021年までに年間850ZBに達する見込みです。こうしたデータ量の増大に対してはストレージベンダーとして注目して、デバイスの提供を行っていきます。ただ、必要なのはデバイスだけではありません。サーバ、ネットワーク、ストレージをシステムとして提供することが必要で、データセンターのコア領域で用いられている製品をそのままコンパクトにした製品が求められています。今後、エッジ領域においてもそうした製品を提供していくことになるでしょう。

将来的には、Dell EMCやNetAppのような多岐にわたる製品ポートフォリオを持つことを目指しているのですか?

チャン氏:当社がシステムビジネスに参入した背景には、ストレージアーキテクチャーにまつわる2つの変化があります。1つは、スケーラビリティが強く求められるようになったこと。もう1つはデータセンターだけでなく、コア、エッジ、エンドポイントの3領域をカバーする必要がでてきたことです。

今まではコアをフォーカスにあて開発を進めてきました。しかし、それだけは不十分です。質問に率直に答えるなら、ユーザーが2つの課題に対応できるよう、既存の製品ポートフォリオだけでなく、より大きな領域をカバーできるプラットフォームを提供していくことになります。重要なのは、他社も含めたこれまでの製品ポートフォリオと比較するのではなく、これまでにない新しい製品をどうポートフォリオに加えられるかです。

近年のストレージは重複排除・圧縮や遠隔地レプリケーションなど、効率的な利用やデータ保護のためのソフトウェアの重要性が増しています。一方、ウエスタンデジタルはハードの会社というイメージが強いですが、ソフトウェアの技術はどう強化していくのでしょうか?

チャン氏:今回日本市場に投入するNVMeフラッシストレージアレイには、IntelliFlashというストレージOSが備わっています。IntelliFlashは9年前に開発され、多くの機能強化を行って今日市場で求められるデータマネジメントの機能はほぼすべてを備えています。具体的には、インライン重複排除・圧縮をはじめ、空間効率に優れたシンプロビジョニング、スナップショット&クローン、リモートレプリケーション、アプリケーションを意識したプロビジョニング、AI/MLを活用したキャパシティや障害の予測などです。高IOPS、低レンテンシーを実現する仕組みも備えています。基本的に他社が提供している機能はすべて提供できると思ってください。

また、私の部隊には多くの開発者がいますが、そのうち約90%がソフトウェアエンジニアです。ウエスタンデジタルは確かにハードウェアに強い会社です。しかし、ソフトウェアもそれと同じくらい重要だと考え、継続的に投資を行っていく方針です。

他社にはない特徴的な機能はありますか?

チャン氏:IntelliFlashは、FCとイーサネットを両方をサポートし、プロックデバイスとファイルストレージの両方を同時に利用することができます。他社のように片方ずつを選択的に使うのではなく両方同時です。これは非常に使い勝手のよいものです。ストレージコンソリデーションを行うときには、別々に2つのシステムを購入する必要なく、1つ製品で対応することができるため、お客様にとって大きな価値になります。

NVMeオールフラッシュということで、高パフォーマンスであることが最大のアドバンテージではないのですか?

チャン氏:もちろんそうです。オールフラッシュの約3倍高速で、レンテンシーも1ミリ秒を切っています。おそらく現在で市場にあるオールフラッシュストレージで最速です。スケールアップも大きなアドバンテージで、1台のシステムを最大1PBまで拡張でき、重複排除・圧縮を利用すればさらに利用効率を高めることができます。システムマネジメントも簡単です。パフォーマンスを重視するか、容量を重視するかで拡張の方法を柔軟に変えることができます。1つのシステムのなかで、途中からハイブリッド構成にすることもできます。

加えて、製品の組み合わせも大きな差別化になると考えています。例えば、IntelliFlashとオブジェクトストレージ製品の「ActiveScale」を組み合わせて、IntelliFlashのスナップショットをActiveScaleに保存することで保存効率や利用効率をさらに高めることができます。

河野さんは、国内での事業立ち上げ実績が豊富にあります。これに対してウエスタンデジタルは歴史のある企業です。スタートアップとの違いは感じますか?

河野氏:スタートアップは事業基盤が不安定です。成功のための軌跡をうまく描けていたとしても、米国本社の意向で突如、事業から撤退するということも起こります。マネジメントを行う場合は、家族を持った社員一人ひとりのことも考えなければなりませんし、お客様に対しても余計な心配をかけずにビジネスに取り組んでいかなければなりません。途中まで進んだ計画が台無しになることで、取引先にもエンドユーザーにもリスクを与えてしまう可能性があります。そうした経験をしてきたうえでお話させていただくと、ウエスタンデジタルにおける新事業はリスクがないかたちでスタートできていると感じています。リスクをSIerやエンドユーザーから排除できている。そうしたなかで、スタートアップの経験を生かせることは大きなポイントになると考えます。

リスクがないなかでのスタートアップの経験とは例えばどんなものですか。

河野氏:記者発表会のなかで、国内展開は大きく3つの柱があると申し上げました。1つは、日本に製造拠点を持つことの強みを生かして検査拠点の創設を検討すること、2つめはグローバル基盤を持つ確立された企業体であるため、容量課金などが提案可能になること、3つめは、垂直統合モデルで価格競争力の高さを維持できることです。

このうち例えば容量課金がそうです。容量課金はすでに大手ストーレージベンダーが採用していますが、国内では海外のようにスムーズにはいきません。金融機関とのパートナーシップが重要になるからです。こうした取り組みはリスクを抱えたスタートアップでは難しい。しかし、ウエスタンデジタルならばそれが可能です。

SIerやパートナーがウエスタンデジタルと組むメリットは何でしょうか?

河野氏:われわれ自身は、大きく4つの魅力があると考えています。自社のソリューションと組み合わせた展開がしやすいこと、製品ラインアップを組み合わせた展開ができること、垂直統合型のコスト構造がビジネスの展開を支えてくれること、ウエスタンデジタルという製品ブランドを使った新しい切り口が提供できることです。製品カテゴリーとしては「プラットフォーム」「コンポーザブルインフラストラクチャ」「クラウド」「プライマリー」という4つを設けていますが、これらは従来のエンタープライズの枠にとどまるものではありません。自動車や設計製造、情報通信などの特定の業種に特化したソリューションも含まれます。一般的なストレージベンダーにはない製品の組み合わせやソリューションの提供が可能になると考えています。

最後に市場やユーザーに対するメッセージをお願いします。

河野氏:SIerとの協業、パートナーとの協業、エンドユーザーへのハイタッチを進め、国内エンタープライズ業界のゲームチェンジャーになっていきます。