日本には「小江戸」と呼ばれる都市がいくつかあるが、千葉県香取市佐原もその1つだ。佐原は、木造の商家や蔵など、いまだに江戸時代の風情が残っている。夏と秋の2回にわたり、計24台の山車が繰り出される「佐原の大祭」は、ユネスコ世界無形文化遺産に登録されている日本の山車行事の1つだ。
観光客誘致に必須のWi-Fi
そんな佐原において、歴史的資源を活用した観光を活性する取り組みが進んでいる。その中心を担っているのが、NIPPONIA SAWARAの代表取締役社長を務める杉山義幸氏だ。
佐原は成田空港から車で30分程度の位置にあることから、「外国人旅行客の方に、最後の1泊を佐原で過ごして、江戸期から続く歴史文化を体験してもらいたい」と、杉山氏は話す。
NIPPONIA SAWARAは、江戸が失った日本の伝統的な景観・歴史文化体験を宿泊滞在の中で供給するため、佐原のまち全体を宿泊施設として開発することを目指している。その一環として、古民家をリノベーションしたホテルやドミトリーの構築を進めている。
杉山氏は、佐原に外国人旅行客を誘致し、インバウンドを活性化させる上での課題について、次のように語る。
「佐原は成田空港から近く、観光コンテンツは豊富です。しかし、佐原の観光地としての知名度は国内でもそれほど高くありません。そこで、認知度を上げるためにSNSを活用しようと考えましたが、Wi-Fiが導入されていませんでした」
外国人旅行客は、旅行先でスマートフォンによって情報を入手・活用し、旅行先での体験として、スマートフォンで撮影した写真をSNSにアップロードする。彼らがSNSを介して発信した情報は世界中に伝わる。海外から来日する外国人旅行客は、ガイドブックではなく、SNSで情報を収集し、評判がよい店を訪れたり、商品を購入したりしていると聞く。そうした環境を実現するために、Wi-Fiによる通信環境は重要だ。
多言語対応に伴う課題もITで解決
また、「千葉・江戸優り佐原観光活性化ファンド」を通じて、NIPPONIA SAWARAに出資している京葉銀行の法人営業部 地域振興グループ リーダー 根津久一郎氏は、「外国人旅行客を迎える上で、多言語による対応がカギになります」と語る。
実のところ、佐原は英語以外の言葉を母国語とする外国人旅行客も多いという。その代表例がタイ人だ。タイの人気ドラマ『ライジング・サン』のロケが佐原で行われたことから、タイ人がそのロケ地を訪れるのだ。英語はともかく、タイ語の会話が流暢な人は少ないだろう。
根津氏は「ITを活用することで、多言語による対応を実現できるのではないかと考えました」と話す。また、仮に観光客を誘致できたとしても、もてなす側の人間の数が限られており、人的リソースを有効活用するという意味でもITの活用は役に立つと思われた。
杉山氏も「外国人旅行客をお迎えするにあたって、地域全体でのおもてなしという観点から、多言語と地域の店舗における対応という課題があります。ITを活用することで、これらの課題を補完していけるのではないかと思いました」と語る。
そこで、佐原の観光促進に伴う課題を解決するため、NTT東日本のサポートを受け、ITを活用する取り組みが始まった。