ヤマハ発動機と富士通は3月11日、IoTの活用により470(ヨンナナマル)級と呼ばれるセーリング競技用小型ヨットのパフォーマンス向上に向けた実証実験を同13日~4月30日の間、静岡県の浜名湖で実施すると発表した。
今回、実証実験を含めた活動を「Project 470 Sailing Analysis(プロジェクト 470 セーリング アナリシス)」とし、両社で取り組む。活動を通じて、より高いパフォーマンスを発揮できるヨットおよびボートの開発基盤を構築し、グローバルにおけるマリン市場のさらなる発展に寄与していくという。
セーリング470級は、全長470cmの2人乗り小型ヨットを操るセーリング競技。舵取りとメインセール(主帆)を調節するスキッパーと、船の傾き調整とジブセール(前帆)の操作を担当するクルーにより、海上に設置されたブイを順に回り順位を競う。
国内では大学や実業団のヨット部の多くに採用されており、世界でも多くのセーラーが世界選手権をはじめ、国際レースでの上位入賞を目指し活動しているクラスで、建造においてはワンデザイン(同一の設計)が基本で、国際470協会の審査によってライセンスを付与された建造者が「International 470 Class Rules」に基づいて建造し、現在は国内においてヤマハ発動機を含む2社がライセンスを所有し、生産している。
470級ヨットの設計・建造規格は厳格に定められており、限られた許容範囲の中で、いかに帆走性能を向上させるか、艇体、セール、マストなどヨットを構成するさまざまなチューニングが開発上の最重要課題となっているという。
実証実験では、チューニングや選手の動作が帆走性能に及ぼす影響を明らかにし、結果としてセーリング時の風速、波浪など海上の状況や選手の体格に応じた最適なチューニングを導き出すことを目的としいる。
具体的には、ヤマハ発動機製の470級ヨットの艇体に富士通が開発した艇体の姿勢を計測する9軸センサ(加速度、ジャイロスコープ、地磁気)と艇速や位置・針路を計測するGPSセンサを搭載した装置を取り付け、帆走中にセンシングしたデータを収集し、富士通のクラウドサービスで解析することで、艇体の速度や針路、姿勢などを可視化する。
また、ヤマハ発動機が取り付ける470級ヨットのラダー(舵板)にかかる力を測定する応力センサからのデータと、伴走する計測艇に取り付けられた風向風速センサで得られた海上の風向きと風速のデータを富士通のクラウドに記録。さらに、これらのデータを統合し、アプリケーション上に表示された解析結果をもとに、チューニングと選手の動作ごとのセーリングパフォーマンスとの相関関係を分析する。
各社の役割として、ヤマハ発動機は各種センサや富士通が開発した分析結果を表示するアプリケーションを用いて、ヨットの帆走性能の計測とチューニングを繰り返し実験するほか、実証実験を通じて蓄積した知見やノウハウをヨットやボートの開発基盤強化に活用し、470級ヨットの市場投入を皮切りとしてマリン市場の発展に寄与する考えだ。
一方、富士通では船艇に取り付けた各種センサから取得したセンシングデータを富士通のクラウド上で解析し、艇体の速度や針路、姿勢として可視化し、それらのデータから分析したさまざまな結果を数値やグラフ、海上地図などの形式でパソコンやスマートデバイスに表示するアプリケーションを開発し、ヤマハ発動機に提供。これにより、ヤマハ発動機の470級ヨットの開発を支援する。
今後、両社はヨットの挙動に加え、選手によって動かされるセールの動きや選手の身体の動きのデータなども取得を予定している。また、ヤマハ発動機は実証実験により得られた知見やノウハウを活かし、最高の帆走性能を実現する470級ヨットの開発とセーリングパフォーマンスのさらなる向上を目指す方針だ。