国際航空宇宙展2018において、川崎重工業は現在開発中のデブリ(宇宙ゴミ)捕獲システムについて紹介していた。同社が掃除のターゲットとしているのは、軌道上を漂っているロケット上段。技術実証のために、現在60kg級の超小型衛星を開発しており、早ければ2020年にも打ち上げる計画だという。
何らかの方法でデブリを除去するにしても、軌道上でまずはデブリを捕獲する必要がある。しかしこれが一筋縄にはいかない。デブリはとっくに制御を失っていて、こちらの都合には合わせてくれない。場合によっては、ランダムに回転している可能性もある。
そこで、同社が開発しているのが、捕獲機構と接近用画像センサーから構成される捕獲システムである。ロケット上段の衛星分離部(PAF)に注目し、画像認識により、ロケット上段までの距離や角度を計測。接近して4本の伸展ブームでPAFを捕獲し、そこから導電性テザーを伸ばし、ローレンツ力で減速を行い、高度を下げる。
これらの要素技術の軌道上実証を目的として、同社はデブリ捕獲システム超小型実証衛星「DRUMS」(Debris Removal Unprecedented Micro-Satellite)を開発中。軌道上で疑似デブリとなるターゲットを放出し、一旦距離を置いてから、画像認識で接近、長さ2mのマストを伸ばし、ターゲットに当てることを目指す。
DRUMSについては、すでに宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「革新的衛星技術実証プログラム」の公募に応募済み。同プログラムの1号機の打ち上げは2019年1月に実施される予定だが、DRUMSがもし採択されれば、その次の機会となる2号機に搭載され、2020年度にイプシロンロケットで打ち上げられる予定だ。
ただ将来、技術的には可能になるとしても、デブリ除去は事業化が難しい。デブリ除去の費用は、倫理的にはこれまでデブリを発生させてきた国や企業が負担すべきだろうが、それを義務づける制度は無く、今後もすぐには難しい。デブリ除去衛星のために数百億円もの費用を民間が出すのは厳しいとみられ、同社は官需を想定しているとのことだ。
同社は宇宙分野において、ロケットのフェアリング、再突入機の断熱材、「きぼう」のエアロック、衛星の伸展機構(子会社の日本飛行機)などの実績があるが、衛星本体の経験となると、30年以上前に打ち上げた測地実験衛星「あじさい」くらいしかない。しかもこれは大きなミラーボールのようなもので、電源すら搭載していない特殊な衛星である。
しかしデブリ除去衛星については、自社で開発することを検討しており、運用のためのアンテナも自社の工場内に設置する予定だという。大きな衛星の前に、まず超小型衛星を開発し、衛星システムの技術を取得しようというのは、プロセスとしては正しいだろう。超小型衛星であれば、低コスト・短期間でPDCAのサイクルを回すことができる。
日本の衛星メーカーは長らく、NECと三菱電機が2大勢力となっており、ベンチャーのアクセルスペースが近年存在感を増しつつあるという状況。将来、ここに川重が加わる構図になれば面白い。