ジョンソン・エンド・ジョンソンは11月5日、テレビ向けのVRを提供するジョリーグッドと、医療研修VRを共同開発すると発表した。すでにコンテンツは完成しているが、今月に行われる医療学会での発表をもって、提供開始となる。
提供を開始するのは、同社が提供する不整脈の診断及び治療を支援する機器「CARTO 3」(カルト スリー)を用いて、「カテーテルアブレーション治療」を、高精度360度カメラで撮影したもの。主に手術室のスペースの都合から、医師の見学人数に上限がある手術の現場を360度映像化することで、遠方の医療機関でも、実際の治療の現場にいるような臨場感がある医療研修を可能にする。
一般提供する予定はなく、「CARTO 3」を利用する医師の技術向上向けに無償で提供される。コンテンツは視聴用のゴーグルにインストールされて提供されるため、PCなどの他の機器は必要ない。
今回、提供される医療研修VRは、ジョリーグッドが提供する人材育成ソリューション「Guru Job VR」(グルジョブ・ブイアール)を、医療従事者向けに開発したもの。第一弾として、不整脈の一種である心房細動の名医による手技をVR化した。
ジョンソン・エンド・ジョンソン メディカル カンパニー バイオセンスウェブスター事業部 バイスプレジデント岩井智光氏は、VRコンテンツを提供する背景を、「脳梗塞の2-3割が不整脈『心房細動』に起因した心原性脳梗塞だ。この治療法であるカテーテルアブレーションは、患者負担が低い治療法だが、認知度が低く、熟練した技術をもった医師が少ないのが課題」と説明する。
同事業部 マネージャー 長谷川聡史氏によれば、心房細動の患者数は80万人とも100万人ともいわれるが、不整脈専門医師数は1000人弱にとどまるという。
長谷川氏は、VR化のメリットについて、「名医の横に立っているかのように手術を見学でき、いつでも同時に何名でも見学研修が可能だ。手術を間近で見学でき、名医の解説付で閲覧できるため手術室にいるかのような臨場感がある」語る。
これまで手術の模様を撮影した動画等は提供されていたが、医師は手術の際、X線画像、3Dマッピング画像、バイタルデータのモニターなど、さまざまなデータを見ながら手術するため、単に手元だけ映した映像だけでは足りないという。また、VRは自分で見たい映像を能動的に閲覧するため、学習効果も高いという。
共同で開発を行ったジョリーグッド 代表取締役CEO 上路健介氏は、VRには、現場を止めない研修ができるのがメリットであり、コスト削減、時間短縮、満足度の高さという3つ効果があるとした。ただ、医療VRには、手術の邪魔にならないよう、カメラ移動等を秒単位で行う綿密な撮影設計、個人&機密情報の削除、衛生管理などの難しさがあるという。
同社が医療用VRを手掛けるのは初で、今後、この分野での利用拡大を図る方針だ。
両社は今後も、さまざまな医療の現場を高精度VR化し、医療業界におけるVR研修、技能実習への活用を共同で研究開発していく。また、今後5Gなどの通信環境は整ってきた場合は、遠隔地でのリアルタイムのVR研修も検討していくという。