産業技術総合研究所(産総研)は、極端紫外線フェムト秒レーザーを用いて、合成石英への極めて熱影響の少ないレーザー加工を実現したと発表した。詳細は、学術誌「Applied Physics Letters」に掲載された。
同成果は、産総研 分析計測標準研究部門放射線イメージング計測研究グループの澁谷達則 特別研究員、田中真人 主任研究員、小川博嗣 主任研究員と、産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ 先進コヒーレント光プロセスチームの黒田隆之助 ラボチーム長、高橋孝 リサーチアシスタント(東京大学大学院工学系研究科 大学院生)、東京大学 光量子科学研究センターの坂上和之 主幹研究員、物性研究所の小林洋平 教授、早稲田大学理工学術院の鷲尾方一 教授、量子科学技術研究開発機構 量子ビーム科学研究部門の錦野将元 グループリーダー、宇都宮大学学術院の東口武史 教授らの共同研究によるもの。
現在、さまざまな波長のレーザーを用いた材料加工が行われているが、将来の人手不足を補うための制御の容易な新たなレーザー加工技術の開発が期待されている。その実現のためには、レーザーの短波長化や熱影響の削減が掲げられており、波長120mm以下の極端紫外線領域のレーザー光の産業利用化が検討されている。
また、小型電子デバイス用の次世代電子回路基板として注目されるガラスについて、その高密度な微細穴開け加工のニーズにこたえるには、従来の技術では熱溶解によりレーザー照射部と非照射部との境界にリムという隆起構造が生成するなど、品質上の課題があった。
基本的なガラス材料の1つである合成石英の加工においては、フェムト秒レーザー加工における亀裂の影響が加工品質に大きな影響を与えるとされる。そこで同研究では、極端紫外線フェムト秒レーザーを用いた加工に注目し、合成石英をターゲットとした加工実験および加工特性の評価を行うことにしたという。
具体的には、従来の近赤外線フェムト秒レーザー(波長800nm、パルス幅約70フェムト秒)とSACLAの極端紫外線フェムト秒レーザー(波長13.5nm、パルス幅約70フェムト秒)を用いて合成石英の加工を実施したとのこと。
これにより、極端紫外線フェムト秒レーザーが従来のレーザー照射に比べ、損傷閾値や有効吸収長といった項目において極めて高い加工性能を有すると確認できたという。
また、加工モルフォロジーの評価のため、極端紫外線フェムト秒レーザーのマルチパルス照射による深掘り加工を行い、形成されたクレーター表面の観察を行ったところ、加工によるクラックは観測されず、加工後の走査型イオン顕微鏡による断面観察からも、リム構造は確認できなかったとする。
この結果から研究グループは、極端紫外線フェムト秒レーザーを用いることで極めて熱影響の少ないレーザー加工が可能であることが示されたと説明。今後は、SACLAなどで極端紫外線領域に近い波長で損傷閾値などの照射レーザー波長依存性の精査を進めるとともに、合成石英を含むガラス材料などのフェムト秒レーザー加工のメカニズム解明へと発展させ、産業ニーズに応じた最適加工の実現を目指すとしている。