シーメンスPLMソフトウェアは、2018年8月28日から30日(米国時間)にかけて米国ボストンで開催した「Siemens Industry Analyst Conference 2018」の中で、3Dプリンタを用いた製造技術であるアディティブ・マニュファクチャリング(Additive Manufacturing)の動向と実生産に適用した最新事例などを紹介。3Dプリントをプロトタイプではなく、実際のものづくりで活用する同社の事業展開についてアピールした。

実生産の事例が登場するも課題はコスト

素材の進歩でローコスト化に期待

3Dプリントで実際のモノを製造した事例として、ブガッティ・シロン(自動車)の可変式リアスポイラーのパーツとシーメンスのガスタービンのブレードの例が紹介された。

ブガッティの例ではチタンを積層してセラミックでコーティングした部品を製造。従来の手法に比べて10倍のスピードアップ、50%の軽量化を実現している。シーメンスの例では、13個の部品を18ヶ所溶接して構成していたコンポーネントを1個の部品として製造することに成功。性能向上のほかリードタイムが26週から3週に短縮できた。

  • アディティブ・マニュファクチャリングの適用イメージ

    ガッティ・シロンの可変式リアスポイラーの設計・製造でアディティブ・マニュファクチャリングを適用

アジア・パシフィック地域のメディア向けインタビューで、同社副社長のサール・アンドレアス氏(製造エンジニアリング・ソリューション担当)は「実生産での3Dプリンタの使用はまだまだ新しい」と語っており、実用化の初期段階と言える。

また、同社副社長のズヴィ・フォイアー氏(製造エンジニアリング・ソフトウェア担当)は「自動車メーカーのほとんどがアディティブ・マニュファクチャリングに取り組んでいる。プロトタイプ作りの初期段階だが、実際の生産も視野に入っている」とし、同社シニア・マーケティング・ディレクターのアーロン・フランケル氏も「トラック・バスのメーカーではスペアパーツの生産を考えている」と語るなど、実ビジネスでの利用を想定したトライアルが進んでいることを示した。

しかし短時間で高性能なパーツの製造が可能になったが、まだ大量生産品への適用には至っていない。このことに関してアーロン・フランケル氏は「素材コストが1つのキーファクターだ」とその理由を説明する。ただし「現在22種類の素材が使用でき、毎月のように使用できる素材が増えている」(ズヴィ・フォイアー氏)、「現在、素材の企業やマシンの企業がローコストの素材を開発しているところ」と、コスト問題の解決に期待を寄せている。

  • サール・アンドレア氏、アーロン・フランケル氏、ズヴィ・フォイアー氏

    左からサール・アンドレア氏、アーロン・フランケル氏、ズヴィ・フォイアー氏

エンジニアの考え方を変える必要がある

日本でやりたい企業があれば大歓迎

同社のアディティブ・マニュファクチャリングは「3Dプリンタでプロトタイプを作るのではなく、最初から良いものを作る」という方向性で事業化を進めている。

そのためには「プリント時の問題は、プリント前に解決する」という考えのもと、プリンティングに適した設計を行う必要がある。「3Dプリントで高いパフォーマンス、軽量化、パーソナライズした製品が可能になり、大きなビジネスチャンスを生む。そのためにはエンジニアの考え方を変える必要がある」とアーロン・フランケル氏は話す。

現在、このソリューションを導入、またはトライアルしている日本企業はまだない。「日本でやりたい企業があれば喜んで一緒にやりたい」とズヴィ・フォイアー氏は、いつでもウェルカムだと話す。

ブガッティのプロジェクトではドイツのエンジニアリング系シンクタンクも参加し、非常に短期間に生産まで可能になったとしている。新しい技術を導入する際に必要なコンサルティングは、同社が今年4月に運用開始を発表したアディディブ・マニュファクチャリング・ネットワーク(AMN)のエコシステムを活用して提供できるとしている。世界中で事例が増え始めた3Dプリンタの実生産での活用は「日本の企業次第」(ズヴィ・フォイアー氏)という状況のようだ。

AMNは製造方法、デジタル・ツインの実現をサポートするソリューション

AMNは3Dプリントを利用した部品の設計、製造、またそのためのツールの利用からグローバルでの調達を可能にするオンライン・プラットフォームだ。現在エコシステムを構築している段階で、いくつかの企業とパイロットプロジェクトを行なっている。AMNでは、アディティブ・マニュファクチャリング用の設計、シミュレーション、最適化、製造のためのソフトウェアをクラウド上で提供している。これらツールはNXのエンジンを使用しており、現在AMNとリンクしているCADはNXのみ。しかし「AMNはニュートラルなもの。Solid Egdeのほか、他社のツールも使えるようになるだろう」(サール・アンドレアス氏)とのことで、将来は選択肢も増えるようだ。

まだ日本からAMNに参加しているところはないが、「使いたいところがあれば、いつでも提供できる」(ズヴィ・フォイアー氏)とのこと。

AMNは3Dプリンティングのためのプラットフォームのように思えるが実はもっと大きな目的がある。「マーケットのあらゆる企業に対して製造方法、デジタル・ツインの実現などをサポートするソリューションと考えている。」とズヴィ・フォイアー氏は語っている。

アディティブ・マニュファクチャリングでは、製品の作り方が変わり、今まで不可能だったことも可能になり、新たなビジネスモデルが生まれる可能性を秘めている。実製品での適用事例が出始めた今、今後の展開がますます注目される技術と言えそうだ。

  • アディティブ・マニュファクチャリング・ネットワークのエコシステム

    アディティブ・マニュファクチャリング・ネットワークのエコシステム