ここ数年でメモリやネットワーク技術が著しく進化してきたストレージ。今回、NVMe(Non-Volatile Memory Express)とSCM(Storage Class Memory)の2つの次世代ストレージを担う新技術について、EMC ジャパン プライマリストレージ事業本部製品SE部 部長の森山輝彦氏と、同 プライマリストレージ事業本部 Oracleスペシャリストの三浦真氏に話を聞いた。
1970年~2010年代までのストレージ技術の変遷
まずは、これまでのストレージ技術の変遷をおさらいをしてみよう。1970年~1980年代にHDDにバスタグのケーブルをつなげたメインフレームが登場し、オープン系になるまでHDDにDRAMを搭載してキャッシュを使う流れだったが、当時のキャッシュは数MBしかなかった。その後、1980~1990年代にリードキャッシュにおいてアクセスを迅速化し、1990年~2000年代にはメインフレームのインタフェースがバスタグからSCSIに変わり、ケーブルも光に変遷してきた。
1970年~2000年代までのボトルネックはHDDであり、コントローラやネットワークの性能よりもHDDの性能が影響を受けるため、向上を図るという意味ではHDDの数を増やすか、回転数を上げるかなど、キャッシュマネジメントをはじめ、DRAMをいかに有効活用するかということに取り組んでいたという。
同時代の従来機種の場合、レイテンシはディスクのI/Oのアクセススピードとのバランスがドライブに対して大きく、ボトルネックとなっていた。そこでSSDが登場した。2008年~2014年はハイブリッドストレージとして、メディアの速度に応じた階層化ストレージが全盛の時代となった。この時代の特徴は、もともとボトルネックだったHDDのレイテンシが従来は20ミリ秒を要していたが、500マイクロ秒と大幅に改善された点だという。
HDDのレイテンシが改善されたことについて、森山氏は「NANDフラッシュSSDの価格が抑制されたほか、書き込み需要にも耐えられるオールフラッシュストレージの時代を迎えたからだ。これまで階層化しつつレイテンシを高めることに取り組んでいたが、オールフラッシュストレージにより、ドライブレイテンシは改善された」と話す。
NVMeの登場で並列的なアクセスが可能に
そして、2014年以降に次世代メモリを扱うために作られたプロトコルの規格であるNVMeが登場した。データセンターの要求にも耐えられる仕様となったことから、同社でも2016年にNVMeに対応したオールフラッシュストレージ「DSSD D5」を発表。NVMeは、並列的なアクセスを可能とし、全体的なスループットの向上が図れるほか、コマンドセットが変わったことでCPU負荷を5分の1に削減を可能としている。
NVMeのプロトコルをネットワークに拡張することでサーバとコントローラ、SSD間の全体的なバスを広げて、さらにスループットと並列処理を向上し、I/Oを高めることが可能だ。NVMeはPCIe前提のプロトコルのため、現状ではNVMe-OFなどの普及率やサーバ側のアダプタの成熟度はエンタープライズレベルで自由に使える状況ではなく、ドライバの開発なども含め、本格的な普及は1~2年後を想定している。
三浦氏はDSSD D5について「2016年に発表した際は一部の研究機関、大学、企業などに導入したが、時代に即していなかった側面もあった。オンラインでアナリティクスを高速で稼働させ、広告の分析をリアルタイムで行うことや、研究者がHPCなどの用途で興味を示していたものの、一般企業が使うという世界ではなかった。現在ではこの考え方は一般企業にも広がっている」との認識を示す。
NVMeの技術は2013~2014年にスタートアップ企業が取り組んできたが、プロプライエタリだったため経済性・継続性に課題を抱えていたという。しかし、AIなどの先端技術が一般企業でも使いやすくなっていることに加え、業界のエコシステムを含めた形での対応が現実的になっていることから、一般企業でも高速ストレージを使いたいというニーズが出始めている。
これらの状況を踏まえ、森山氏は「ここ数年で、ようやく規格が技術に追いつき、経済性と安定性が担保できるようになり、業界全体で取り組める状況となってきた。DSSDはフラッシュカードを自前で作っていたが、現在ではNVMe接続できるSSDが購入できるようになっており、周辺の環境も変化している。われわれとしてもタイミング、品質、安定性、経済的にベストな形で、業界を巻き込んだエコシステムの確立が顧客にも還元できると考えている」と、胸を張る。
しかし、HDDのレイテンシを改善することはできたが、近年ではコントローラの劣化がHDDよりも先に始まる状態になりやすくなり、コントローラにボトルネックが移っているという。
同社では、コントローラがネックにならないアーキテクチャとして「XtremIO」などスケールアウト型のストレージでマネージしていたが、ミッドレンジやデュアルコントローラのアーキテクチャの場合は、先にコントローラの性能が劣化するようになっていることから、今後取り組むべき課題だ。
次世代メモリ「SCM」
業界の中ではメディアの革新という観点でDRAMが多様なインタフェースに変化するなど、SCMも最近ではメディアで聞かれるようになり、SCMとNVMeを組み合わせることでSASと比べてNVMeの価値を最大化することを可能としている。
実際、10年前くらいから回転しない、かつRAMより速く、HDDより安いものをSCMと呼んでいたが、“夢”のデバイスのため現状では実現できていないものの、それに近いものとしてNANDフラシュより速いメモリを現在ではSCMと呼んでいる。
森山氏は「もう少し時間はかかるが、SCMで先駆けているのがインテルの3D Xpointだ。従来は100マイクロ秒~200マイクロ秒だったNANDフラッシュと比較し、10マイクロ秒のアクセス速度の改善が見込まれており、ドライブレイテンシをさらに低減することで、高速なI/Oを実現することを可能としている。3D XpointのファクターはSSD、DIMMとあるが、同じ媒体の技術でもファクターやアクセスなどをどうするかにより、サーバとストレージをどのように扱うかが変わる」と、説く。
市場ニーズに対応し、即座に製品を投入するという手法もあるが、時間をかけて経済性を持った技術が普及することで、それを活用した新しい試みが可能になるという期待感もある。AIやマシンラーニング、IoT、ビッグデータなどが現実味を帯び、進化したソフトウェア技術と、それを支えるストレージの新技術が融合しており、どちらか一方だけでは成り立たないという。
現在、SCMはPCRAM(相変化メモリ)、MRAM(磁気抵抗メモリ)、ReRAM(抵抗変化型メモリ)、カーボンナノチューブ(CNT)を利用したNRAMと、5つの不揮発性メモリの実装技術が研究開発されている。
今後、5年間において5つの実装技術の研究開発は、さらに進むものと考えられおり、森山氏は「SCMを用いた高速ストレージの時代が到来すること、それに合わせてネットワークの高速化も追随していくと考えられる。今後、2~3年でストレージに起こる変化は、これまで20~30年かけて進化してきたものが、一気に変わることになるだろう。将来的には、HCIのようにサーバとストレージの境目をどのように考えるか、ということになるだろう」と予見している。
ストレージ業界を取り巻く状況は、HDDで始まり、キャッシュマネージメント、階層化ストレージ、ハイブリッドストレージと続き、一旦オールフラッシュストレージに収束しかけたが、再度メモリが注視されている。
最後に、森山氏は「現状では経済性と速度、容量が違うDRAM、NAND、SCMの3つのメディアが今後数年のストレージ技術のカギとなり、これらの技術をどのように有効活用できるかが各ベンダーの腕の見せ所ではないだろうか」と、語っていた。