昨年度から2年連続で実施されるIT導入補助金(サービス等生産性向上IT導入支援事業費補助金)制度。その内容についてはすでにレポートしているが、制度の背景や特徴、今年度の変更点を経済産業省 商務情報政策局の担当者に聞いた。
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者等の生産性向上の実現を図ることを目的に、中小企業・小規模事業者が自社の課題やニーズに合ったITツール(ソフトウエア、サービス等)を導入する経費の一部を補助するもので、平成29年度は、購入したITツール費用の半分(15万円~最大50万円)が補助される。今年度の予算の総額は500億円で、少なくとも10万社が補助金を利用可能だ。経済産業省では、12-13万社の採択を見込んでいるという。
この点について、経済産業省 商務情報政策局 サービス政策課 教育産業室 課長補佐 宮田豪氏は、「前回は14,000件ほどが採択されたので、今回は1桁違うインパクトを出せたらと思います」と語る。
IT導入補助金制度実施の背景には、サービス産業の生産性の低さがあるという。
「サービス産業は、GDPの7割を占める一大産業であるため、サービス産業の生産性を上げていくことが、GDPを伸ばすことになります。一方で、サービス産業の生産性は軒並み低く、とくに運輸、卸売、小売、宿泊、飲食サービス、医療、介護・保育の7つの業種の生産性を上げていく必要があります。1つの政策によって生産性を上げ、ほとんどの業種をカバーできるツールとしてITがありますが、サービス産業は中小や個人企業の割合が高く、ITにとっつきにくい傾向があります。そこで、中小企業の3割にあたる100万社にITツールを活用してもらい、生産性を上げていく政策がIT導入補助金になります」(宮田氏)
経営診断ツールを使って申請、報告
今年度の制度のポイントとしては、導入効果の公表がある。 IT導入補助金の申請に際しては、ITツール導入により3年後の伸び率が1%以上、4年後の伸び率が1.5%以上、5年後の伸び率が2%以上またはこれらと同等以上の生産性向上を目標とした事業計画を作成することが必要になる。そして、実際に補助金を受けた場合は、IT導入支援事業者を通じて、生産性向上に係る情報(売上、原価、従業員数及び就業時間)等を事務局に5年間報告することが義務付けられる。
なお、ここでいう生産性は、
粗利益(売上 - 原価) / 従業員数 × 一人当たりの平均勤務時間(年平均)
によって算出される。
効果の報告について宮田氏は、「ITツールを入れ、どれくらい生産性が上がるのか計画を出してもらい、年度末ごとに実績を報告してもらいます。報告された数字は、利用したツール、提供したべンダーを含めて公表していきます。中小企業でIT化が進まない要因として、実際に効果があるのかわからない、どのツールを導入したらいいのかわからないということがあります。情報を公開することで、補助金がなくなったとしても、良いツールが見える化されていれば、導入が進み、中小企業のIT化の後押しになると思います」と説明した。
生産性向上の数字は、経営診断ツールを使って算出する。このツールは、企業の経営状態を数値化するもので、金融庁と経済産業省が作った「ローカルベンチマーク」に準じて策定したものだ。
経営診断ツールの導入について宮田氏は、「経営課題のたな卸しを行い、自社の強みや弱みなどを分析して経営計画を作成し、そのためにITをどう活用していくのかを考えていただきたいと思います。そして、ITを活用した成果を経営診断ツールで算出し、次のアクションにつなげていただきたいと思います」と語った。
支援事業者やITツールはWeb上のナビを使って検索
具体的にIT補助金の対象となるツールや、それを提供する事業者は、IT補助金のWebにある「IT導入支援事業者検索」や「ITツール選択ナビ」を使って検索可能だ。しかし、中小企業の中には、社名とツール名だけで取捨選択するのは難しいケースもある。そこで経済産業省では、経営診断ツールを利用して生産性を向上した事例を業種、企業規模、経営課題、ツール機能別に公表していく予定だ。
そのほか、IT導入補助金制度には、他の支援機関との連携を深めていくための基盤を構築するという狙いもあるという。
「補助金の採択は昨年度が14,000件で、今年度12-13万件が採択されます。目標の100万件の中小企業にIT化を含めた生産性向上を訴えていくには、補助金だけでは足りません。国の中小企業の支援機関や金融機関、業界団体とも連携していく必要があります。そのためのプラットフォームづくりも同時に行っています」(宮田氏)
今回、大幅に間口が広がったIT導入補助金。申請は10月上旬(三次公募)まで可能となっているので、IT導入を検討しているのであれば、利用を検討してはみてはどうだろうか。