昨年度に引き続き、今年も平成29年度の補正予算によって、4月からIT導入補助金(サービス等生産性向上IT導入支援事業費補助金)制度がスタートした。予算も昨年度の100億円から5倍の500億円に引き上げられ、10万社以上の中小企業がその恩恵を受けることになる。

IT導入補助金の概要についてはすでにレポートしているが、補助金の申請の際には、生産性向上を目標とした事業計画を作成することが必要になる。ただ、企業によっては、自社だけで事業計画を作成するのは難しいというケースもあるだろう。そんなときに頼りになるのが「よろず支援拠点」だ。

「よろず支援拠点」とは?

経済産業省は、平成26年6月から、各都道府県に1カ所ずつ、地域の支援機関と連携しながら、中小企業・小規模事業者が抱える様々な経営相談に対応する「よろず支援拠点」を整備した。

「よろず支援拠点」は、名前のとおり、中小企業からどんな相談でも受け付ける。

中小企業基盤整備機構 経営支援部 審議役 小濱昭浩氏は、「売上拡大、経営拡大、創業、廃業など、あらゆる経営相談に、無料で、何度でも応じ、成果が出るまで、相談者に寄り添って、伴走型でやっていくのが特徴です」と説明する。

  • 中小企業基盤整備機構 経営支援部 審議役 小濱昭浩氏

たとえば、施策活用では、これはIT補助金を使ったほうがいいった情報を提案し、申請のための事業計画支援も行っている。相談は無料で、中小企業診断士、公認会計士、税理士、ファイナシャルプランナーITコーディネーターなどの資格を持つ、コーディネーターが担当する。

金融機関や商工会議所、商工会からの紹介で相談に訪れるケースも多く、金融機関のTV会議システムを使って相談を行うこともあるという。

すでに年間20万件以上の相談

中小企業の経営相談は、これまでも商工会、商工会議所が行っていたが、これらとよろず支援拠点との違いについて小濱氏は、「商工会、商工会議所がかかりつけ医であるとすれば、よろずは総合医、専門医として、商工会や商工会議所を補完する役割になっています。よろずの年度計画を作成するには、商工会や商工会議所、あるいは中小企業を支える地元の金融機関から意見を聞き、自分達が不得意な部分は何か、よろずに何をしてほしいかをヒアリングし、それを重点分野としてやっていく体制になっています」と語る。

よろず支援拠点に対する相談件数は、平成26年度が92,820件、平成27年度が131,690件、平成28年度が188,364件、平成29年度が200,194件と増え続けている。

  • 平成29年度のよろず支援拠点事業の実績

平成29年度の相談内容としは、約2/3が売上拡大に関するもので、以下、経営改善・事業再生が17.5%、創業が12.4%と続く。

具体的な相談内容としては、経営知識がもっとも多く、施策活用、事業計画策定、販路提案、広報戦略、IT活用、商品開発と続く。

相談に訪れる企業規模は、5人以下が半数の52%、20人までが20%、50人までが9%と、8割が50人以下の企業だ。

f-Bizや板橋モデルの成功体験がベース

相談のポイントについて小濱氏は、「経営者の中には、本当の課題に気づいていない人もおり、話をよく聞いて本当の課題を見つけ出し、効果的な提案をしていくことが、よろず支援の行動指針になっています。ただ、中小零細の方ですので、お金のかかる提案ではなく、コストのかからないアイデア勝負の提案をしていくことにしています。一般的なコンサルティングの場合は、悪い点を指摘して、そこを改善していく提案をすることが多いと思いますが、よろずの場合は、強みを見つけ、それを活かせる分野にターゲットを絞って支援し、売上を伸ばしていくのが大きな特徴です」と語る。

この手法のモデルになっているのが、富士市産業支援センター(f-Biz)の成功体験だ。同センターの小出センター長が実践した強みや良いところを見つけ伸ばしていく方法が売上拡大で高い成果を出していることから、f-Bizをモデルを使って支援を行っているという。

経営改善については、板橋区立企業活性化センターの中嶋センター長が行った板橋モデルを採用している。板橋モデルでは、

・どんなに悪い状況の企業でも支援(但し経営者の合意と覚悟が条件)
・土日、祭日、夜間の相談にも対応(予約制)
・金融機関へも同行・資金繰り表・改善計画など計画書も一緒に作成
・活性化センター登録専門員の支援(無料)と完成するまでのモニタリング体制
・区内金融機関全支店との連絡網構築(支店長、融資担当者・本部責任者)
・関東財務局、関東経済産業局との協力関係も構築(定期的勉強会開催)
・経営課題全般に対する支援体制が構築されている
・よろず支援拠点のモデルの一つ(他機関などが対応しない経営改善案件を解決)

を行動指針にしている。

「最近は人手不足により、なかなか人が採用できない現状があります。そのためにITによって生産性を上げたいくという相談を受けます。過去には、大学や県の工業技術総合センターと連携し、プロジェクトチームを作って対応した例もあります」(小濱氏)

無料の「よろず支援拠点」によるコンサルティングやIT導入補助金は、潤沢な予算が確保できない中小企業にとって、生産性向上の大きな手助けになるだろう。