米オークリッジ国立研究所(ORNL)は、スパイク状のナノカーボン触媒を用いて、窒素と水からアンモニアを合成することに成功したと発表した。ハーバー・ボッシュ法による高温高圧条件下でのアンモニア合成と比べると収率は低いが、室温条件で反応が進むという特徴がある。研究論文はScience系列のオープンアクセス誌「Science Advances」に掲載された。

  • アンモニアの生成反応

    強い電界をかけることによってナノスパイク先端部でアンモニア生成反応が進行する (出所:ORNL)

アンモニアの大量合成に使われているハーバー・ボッシュ法では、窒素分子と水素分子を反応させることでアンモニアを得るが、安定した窒素分子の結合を分離するために高温高圧条件が必要となる。今日、アンモニアの工業生産で消費されているエネルギーは世界の全エネルギー消費の3%を占め、温室効果ガスの3~5%程度がアンモニア合成によって排出されていると見積もられている。

このように大量のエネルギーを消費するハーバー・ボッシュ法に替わって、エネルギー消費の低いアンモニア合成プロセスの開発が進められている。今回報告された合成反応は、窒素と過塩素酸リチウムを分散させた水溶液中に強い電界をかけ、ナノカーボンスパイク触媒の作用によってアンモニアを合成するというものであり、室温条件で反応が進むという特徴がある。

  • 走査型透過電子顕微鏡(STEM)で撮像したカーボンナノスパイク先端部

    走査型透過電子顕微鏡(STEM)で撮像したカーボンナノスパイク先端部 (出所:ORNL)

ナノカーボン触媒のスパイク状突起は長さ50~80nmで、先端部は幅1nm程度となっている。これが電界を増幅するホットスポットとなり、正の電荷をもったリチウムイオンを引き寄せるように働く。リチウムイオンは移動するときに窒素分子を引っ張っていくと考えられている。電界のかかったカーボンスパイクの周囲に窒素分子を引き連れたリチウムイオンが集まって、アンモニア合成反応が始まる。

「通常の触媒反応は反応分子と触媒表面の間での化学結合の形成によって進むが、今回の触媒は化学結合を必要とせず、電界をかけるだけで反応を進めることができる」と研究リーダーのAdam Rondinone氏は説明している。

研究チームは、実験結果を理解するために、コンピュータによるモデリングとシミュレーションも利用した。電界がかかった状態で窒素分子がどのように不安定化するかを説明するため、電界の強さ、カーボンスパイクの周囲のイオン濃度、窒素分子の分子軌道エネルギーなどについて計算による理論予測を行っている。

ナノスパイク先端の形状によって、局所的な電界は1nmあたり10Vオーダーという非常に強いものになるという。電界中での窒素分子のイオン化ポテンシャルと電子親和力を計算することによって、通常は安定して不活性な窒素分子の反応性が高まることが示されている。

今回の方法によるアンモニアの収率は12%程度であり、ハーバー・ボッシュ法に比べると低い。したがって同技術をそのまま工業生産に適用することはできないが、電界を利用する独自の反応プロセスであるため、今後の新たなアンモニア生成技術の開発に役立つアプローチになると考えられている。

  • 同成果により、従来のアンモニア生成のアプローチを代替する可能性が期待される