2018年4月13日から15日まで、パシフィコ横浜にて開催された「国際医用画像総合展(ITEM in JRC)」においてキヤノンメディカルシステムズとNVIDIAは、AIに関する専門的な知識が無くても、医療機関でディープラーニングを活用することができるシステムのデモ展示を行った。
両社は4月11日、日本における大学病院などの医療研究機関向けディープラーニング研究インフラの開発・販売に関する業務提携を行うことについて合意したと発表しており、今回展示されたシステムはその提携の一環として進められているものだ。
同システムは、キヤノンメディカルシステムズが2018年1月よりサービスの提供を開始した医療情報統合管理システム「Abierto VNA」と、NVIDIAのGPU「Tesla V100」を搭載したディープラーニングシステムのポートフォリオ「DGX Station」からなる。
ユーザーはこのシステムを用いることで、ディープラーニングを用いて1つのアルゴリズムを開発するために必要なデータ(教師データ)を作成すること、またその教師データを使い、ディープラーニングにおけるモデルの学習を行うことが可能となる。ブース内ではデモンストレーションとともに同システムの紹介がなされた。
医療×ビッグデータの課題は、導入障壁の高さ
昨今の医療現場では、世界中から報告される膨大な科学的知見を評価・分析するとともに、患者に係る大量の生体情報を把握し、最適で安全に医療を提供することが求められている。そのために、注目を浴びているのがディープラーニングによるビッグデータ解析だ。
その一方、医療機関が独自にディープラーニングを活用した研究に取り組むためには、院内に存在するさまざまなデータを収集・統合し、ハードウェアを用意し、さらに、さまざまなディープラーニング技術を習得する必要があるなど、導入に至って大きな壁が存在していた。
今回発表されたソリューションは、医療データを共有・統合する医療情報統合管理システム「Abierto VNA」を利用することで、医療機関に存在する膨大なデータを容易に収集・統合、共有することが可能となるというもの。また、この膨大なデータをDGX Stationおよびソフトウェアによって高速に処理し、高度なディープラーニング アルゴリズムの設計、展開、利用を実現することができる。つまり、同ソリューション単体でディープラーニングに必要な設備がすべて整ってしまうというわけだ。
加えて、DGX Stationは高い演算処理能力を持ちながら、机に収まる程度の大きさしかないため、置き場所に困らないことも特徴。これらの理由から、現在発表して間もないが、ポジティブな感想をもつ顧客も多いという。
GUI上の作業のみで教師データの作成、およびモデルの学習が可能
さらに、Abierto VNAではGUI(Graphical User Interface)が採用されているため、専門知識がなくともディープラーニングを使った研究を容易に始めることが可能だ。
会場では使用例として、「CT検査の連続した断層写真(輪切りの画像)から、腎臓を識別するためのアルゴリズムを作成する」というデモンストレーションが行われた。その作業方法は至ってシンプルで、
- Abierto上でCT検査の画像を開き、腎臓を目視でマウスでなぞり、ラベリング処理をする
- 右クリックで表示されるメニューから、教師データを作成し、モデルの学習を行う
という作業を行うというものだった。難しいプログラムを書く必要はなく、GUI上のマウス操作のみでほとんどの作業を終えることができる。その後データはDGXで処理され、CT検査の写真から腎臓を認識するためのアルゴリズムが出来上がるというわけだ。
これによってAIに関する専門的な知識がなくても、ただ目視で腎臓を判断し、マウスでなぞるだけで、かつAbiertoの1画面上での作業でディープラーニングに必要な一連の作業が出来るというわけだ。
なお今回のデモでは上述したような機能が紹介されたが、そのほかにもさまざまな機能が用意されているといい、今後はさらに、実際の現場の意見とも合わせ、機能を順次追加していく予定だとしている。