北海道大樹町の宇宙企業「インターステラテクノロジズ」(IST)は2018年3月27日、開発中の観測ロケット「MOMO」2号機を、4月28日以降に打ち上げると発表した。

MOMOの1号機は昨年7月に打ち上げられ、エンジンの性能確認など一部の実証は成功したものの、高度100kmの宇宙空間への到達はできなかった。2号機では機体の構造や姿勢制御方式などに改良を加え、さらに本格的な観測装置も搭載し、宇宙へのリベンジを目指す。

  • MOMO 2号機を前に並ぶ、ISTの稲川社長と、堀江氏

    MOMO 2号機を前に並ぶ、インターステラテクノロジズの稲川貴大(いながわ・たかひろ)社長と、同社の創設者の一人・取締役の堀江貴文(ほりえ・たかふみ)氏 (C) インターステラテクノロジズ

MOMO 1号機

MOMO(モモ)は、ISTが開発している「観測ロケット」――小規模な観測装置や実験装置などを、一般的に宇宙空間とされる高度100km以上まで打ち上げられるロケットである。

全長は9.9m、直径は0.5mで、質量は1150kg。液体酸素とエタノールを推進剤に使う、推力12kNのロケットエンジンをもつ単段式ロケットで、先端に約20kgのペイロード(搭載機器)を搭載することが可能。また、ペイロードを積んでいる部分はパラシュートで海に着水、回収することもできる。

このペイロード搭載部分を使い、宇宙空間に到達する前後に発生する微小重力環境を利用した宇宙実験や、宇宙や高層大気の観測、新しい装置を搭載しての試験など、科学・工学目的での活用が可能。さらに、ロケットの打ち上げそのものを利用した、宣伝やエンターテインメントなど、幅広い用途での需要が見込まれている。

人工衛星を打ち上げることを目的としたロケットに比べ、観測ロケットは打ち上げに必要なエネルギーが少ない。そのためロケットの開発も比較的容易で、前述のような観測ロケットならではの需要もある。そして同時に、開発に必要となるロケットエンジンや姿勢制御などの技術は、将来的に衛星を打ち上げるロケットを開発する際にも役立つため、そのための土台、あるいは一里塚という側面ももっている。

  • MOMO 1号機の想像図

    MOMO 1号機の想像図 (C) インターステラテクノロジズ

MOMOの開発は2015年夏から始まり、エンジンの異常燃焼などの困難を乗り越え、2017年7月30日に1号機の打ち上げにこぎつけた。同日16時31分、ロケットはきれいに発射台を後にして上昇を始めた。しかし66秒後、地上局でのデータ受信が途絶。それを受け、安全性を確保するためにエンジンを停止させる指令が送信された。

エンジンが止まったロケットは、そのまま慣性で高度20km弱まで上昇した後、降下。発射台から約4~7km離れた海上に落下したと推定されている。

その後の分析で、「マックスQ」と呼ばれる、ロケットが空気の力を最も受けるタイミングで機体が破損し、電源が失われ、データ送信が止まったと考えられている。

この1号機の打ち上げでは、実験目的の1つだった宇宙空間への到達は達成できず、また機体やエンジンが実際の飛行環境できちんと動くかといった実証も、途中で機体が破損したため未達とされている。さらに、いくつかの理由による外乱によって、機体がロール軸に対して回転(機体の前後の軸に対する回転)を始めてしまい、さらにそれを制御装置で十分に抑え込むことができなかったという課題も残った。

そのいっぽうで、機体破損までのデータから、エンジンの性能は十分に出ていたことを確認。また、エンジンのジンバル制御(ノズルを振って姿勢を制御する技術)や、ロケットとの通信についても実証できたと考えているとしている。

  • MOMO 1号機の打ち上げ

    MOMO 1号機の打ち上げ。このあと66秒後に、地上局でのデータ受信が途絶。それを受け、打ち上げを中断する決定が下され、宇宙には到達できなかった (C) インターステラテクノロジズ

MOMO 2号機は1号機からここが変わった

こうした結果を経て、ISTはさらなる実証に臨むため、改良したMOMOの2号機を開発した。

大きな点としては、1号機で制御力が不足していたロール制御の方式を変えたことにある。1号機では、コールド・ガス(窒素ガス)を、バルブのON/OFFすることで噴射する装置を使っていたが、2号機では新たにホット・ガスを噴射する装置に変わった。

これは燃料と酸化剤を燃やしそのガスを噴射する、小さなロケットエンジンのような装置で、推力が大きく向上する。また、ノズルも可動式になり、噴射方向を変えられるようになっているため、これにより機体を回転させようとする外乱を、十分に抑え込むことができると考えられている。

また、窒素ガスのタンクを減らせるため、ホット・ガス装置の搭載で増える質量を加味しても、トータルでは軽量化にもなるという。

ISTの稲川 社長は、このホット・ガス装置の開発について「制御力の増大と軽量化という、相反することが一度に解決できました」と自信を見せる。いっぽう同社の創設者の一人で、取締役を務める堀江貴文氏は「技術的にはかなりチャレンジでした」と振り返る。

さらに、マックスQを乗り越えるため機体構造も強化された。とくに強化されたのが、燃料タンクと酸化剤タンクの間の炭素繊維強化プラスチック(CFRP)部分と、尾翼だという。これにより質量は増えるものの、前述したホット・ガス装置による軽量化のおかげで、大きな影響はないという。

逆に、「1号機で実証できたところはそのまま踏襲します」(稲川氏)として、これ以外の点については大きな変更点、改良点はないという。

  • MOMO 2号機の想像図

    MOMO 2号機の想像図。1号機とはスポンサーが異なるため、機体のカラーリングも変わっている (C) インターステラテクノロジズ

「2号機はリベンジ戦」「しっかりできた、心配していない」

MOMO 2号機の打ち上げは、2018年4月28日の11時00分~12時30分に設定されている。また同日16時00分~17時30分が予備として確保されている。打ち上げ場所は前回と同じく、同社の拠点にほど近い北海道広尾郡大樹町の施設から行われる。

また4月29日~5月5日も予備日程として確保されており、この間は5時00分~8時00分、11時00分~12時30分、そして16時00分~20時00分が打ち上げ可能な時間帯となっている。

稲川氏によると、この時期の大樹町の天気は「かなりいいものの、風がちょっと強い」という。そのため風が収まるのを待つ「風待ち」が起こりうるとしているが、「風があまり吹かない早朝など、天気のいいときを狙ってきちっと打ち上げたい」と語る。

意気込みについて問われた稲川氏は、「2号機は1号機のリベンジ戦だと思っています。ロケット開発や技術開発というのはとても難しいと日々感じており、1号機を受けてさらにそれを強く感じています。一つひとつの部品をきちんと丁寧に造って確認し、詳細を詰めていくことで全体を造っていく、という気持ちで作業をしているところです」と語る。

堀江氏は「開発状況を見ている限り、前回失敗したところは適切にカバーできています。強化した機体もしっかり試験し、ホット・ガスもちゃんと動くものができたと思います。私としては心配していません」と期待を見せた。

  • ISTの稲川 社長

    ISTの稲川 社長 (C) インターステラテクノロジズ

  • IST創設者の1人である堀江貴文氏

    IST創設者の1人で、取締役を務める堀江貴文氏 (C) インターステラテクノロジズ