苦心した交流を促す仕掛け作り

--センシングチームの取り組みは、テクノロジーの会社らしい進め方で、他のデータの解析結果が出てくるのが楽しみですね。最後の交流を促す仕掛けを「作法チーム」はどう作ったのでしょうか--

仲氏: どうすれば交流してもらえるか、その仕掛け作りは大変でした。まだ試行錯誤中でもあります。最初は「今、話ができる」ことを示すバッジを付けてもらったのですが、身に付けてもらうところにハードルがあり、思ったようには進みませんでした。面白がってくれるかなと思ったのですが。 そのほか、自己紹介カードの交換や、「環境/エネルギー」や「教育/生涯学習」などのテーマによって作業エリアを区切るなど、興味関心の近いゲスト同士の交流を促す仕掛けを用意しました。LODGEに来る人は仕事に集中するために来ているので、「忙しくても参加してみよう」と思うインセンティブが必要かもしれません。

植田氏: キーワードの旗を立てて、当てはまる人に集まってもらう取り組みは以前からやってみたかったことです。ヤフーの社内でもやってみました。オフラインだけでなく、オンラインでも同じような取り組みも試そうとしています。ヤフーの場合、新たな試みをやってみて失敗したとしても、分析して次につながれば許容される組織文化があります。その意味で、LODGEは失敗が許されるスペースだと思いますね。

仲氏: 本来のリビングラボとは、そんなトライアルアンドエラーが許される場所なのです。本業以外の仕事の仲間を持ち、いろいろなコミュニティの一員であることが生み出す価値は大きいと見ています。そういう人のほうがいいアイデアを出せる。会社の中でしか使えないスキルは意味がないですし、クリエイティブな仕事ではアンテナを広げることが大事です。

植田氏: 兼業を認める会社も増えていますし、交流で得た知見を会社に還元することの価値を実感してほしいですね。逆に、専業を許さない会社が出てくればいいと思います。

ヤフーでは「コミュニケーター」がコミュニティ運営の要

--複数のコミュニティに属していることがイノベーションの力になると。LODGEのような場所は、コミュニティにとってどんな場所になるのでしょうか--

植田氏: 私たちがLODGEを「オープンコラボレーションスペース」と呼ぶのは、意図を正しく伝えるためなのです。日本のコワーキングスペースの多くは、来た人同士が仕事の悩みを話し合う場ではなく、お金を払って集中するための場になっています。決して無料で集中できるスペースを貸す社会貢献活動を行っているつもりはありません。

仲氏: 私も長年あるコワーキングスペースを契約していますが、同じような人が集まる傾向があると感じています。会員同士、誰かにつながろうと思っていないこともあるでしょう。

植田氏: 働き方が多様化すると、1週間のうち2日間は集中するための場所、コミュニケーションを大事にしたい時は別の場所という使い方をしてもいいと思いますね。2018年、起業家向けのコワーキングスペースを運営するWeWorkが日本に進出を果たしました。WeWorkの場合、場所だけでなく、コミュニティ形成に意識的に取組んでいることが評価されています。

仲氏: 日本人の場合、初めて会った人とすぐ打ち解けることが難しいのかもしれません。北米や欧州では、自分は安心できる人だということを示すため、目が合えばほほえみ、その後に話しかけます。そんな慣習がないのに、WeWorkが上陸したからといって急に知らない人同士のつながりができるのかは疑問です。

植田氏: WeWorkの場合はゲスト同士をつなげるだけでいいのですが、ヤフーの場合はゲストと社員をつなげる必要があります。ですから、彼らのやり方をそのまま参考にするつもりはありません。ヤフーには2種類のコミュニティマネージャーがいます。まず、外から面白いゲストを連れてくる社員が何名かいます。そして、われわれが「コミュニケーター」と呼ぶ、ゲスト同士に加えてゲストとヤフー社員をつなげる役割の専任者が1人います。ランチ会など、イベントのアレンジなどはコミュニケーターにやってもらっています。社員につなげるにはヤフーの社員でないとできませんから。

仲氏: コミュニケーターの方には、実験の時に相談に乗ってもらいましたね。

--最後に実証実験を総括していただけますか-- 植田氏: データの分析はこれからなので、現時点では定性的な評価になってしまいますが「やってよかった」と思います。実験をやっていると、通りがかりの社員も面白がってくれました。他者からのコラボレーションの引き合いや取材依頼など、外部からの反応がありましたし、見える化やわかる化のアイデアも得られました。

その意味で、LODGEは実験の場として定着したといえるでしょう。ヤフーでは、計画中のサービスの実験的な取り組みも進んでいます。イベントも勉強会もLODGEで行えるわけですから、若い人たちに魅力的な環境になりました。ゲストに参加してもらう「ものづくり」も浸透させていきたいですね。

仲氏: 今でこそ「デザイン思考」が注目されるようになりましたが、これまでのオフィスは「箱」だけをデザインしているようなものでした。生産性が向上する(儲かる)ビルを作ってほしいという要望に対しては、今までのデザイン手法は通用しません。働き方が見えないとデザインができないからです。人間がどう働くのがいいかを設計することが求められています。国が進める働き方改革は、単にきれいなオフィスにするだけではなく、会社をパワーアップするオフィスにしようとするきっかけになると期待しています。