「深川めし」は、あさりをネギなどとともに煮込んでご飯にかけたり、炊き込んだりした東京の伝統料理。そのルーツは、江戸時代の漁師飯と言われている。駅弁の「深川めし」は「東京駅を代表するご当地駅弁」(JRCP)だが、発売はJR発足後の1987(昭和62)年と意外に新しい。
「東京名物にふさわしい駅弁を模索していたところ、たまたま深川めしを知っている人がいて、研究の末に商品化された」(NRE大増)という。それから1年もたたないうちに日本食堂からJダイナー東海が分社化され、「深川めし」は両社に引き継がれた。当時は新参者だった「深川めし」だが、ご当地駅弁として相当期待されていたのだろう。
ぶっかけ飯vs炊き込みご飯
NREは、2013(平成25)年に「深川めし」を全面リニューアル。それまで入っていたハゼの甘露煮をやめ、あさりの炊き込みご飯も、あさりと牛蒡の生姜煮を茶飯に乗せるタイプに変更した。
「深川めしのルーツである、漁師のぶっかけ飯を再現したリニューアルです。ハゼは価格が高騰していたことと、見た目が良くないというご意見をいただいていたことから取りやめました」(NRE)
一方のJRCP版は、1987年の発売当時からレシピをほとんど変えていない。
「あさりの出汁がきいた炊き込みご飯と、穴子の蒲焼き、ハゼの甘露煮など魚介の味で統一しています」(JRCP)
深川めしは、もともと貝汁をご飯にぶっかけるタイプと、炊き込みご飯にするタイプの2種類があるが、NRE版のリニューアルによって、両方を手軽に食べ比べることができるようになった。
2つの「深川めし」は、味わいも異なる。NRE版はあっさりとした味付けで、茶飯には甘みを感じる。老舗料亭「日本ばし大増」を営むNRE大増らしい味わいだ。穴子もしょっぱすぎず、穴子の風味を味わえる焼き加減。
JRCP版は、やはりハゼの甘露煮が目立つ。江戸前らしい濃いめの味付けでご飯が進む。蒲焼きらしい色の穴子は香ばしく焼き上げられ、お酒にも合う。全体に、駅弁らしいしっかりした味付けという印象だ。
同じ名称、同じルーツを持つ2つの「チキン弁当」&「深川めし」。別々の道を歩み始めてから30年が経過した今、それぞれの駅弁は盛り付けも味付けも大きく変わった。グループで出かける際など、食べ比べて駅弁の歴史を体感するのも面白い。