リアルタイムでのミッション設定とフィードバックを導入

戸松氏は、松丘氏の著書を読んだことをきっかけにリアルタイム・パフォーマンス管理を導入することを決めた。具体的には、部下と上司がリアルタイムでミッションを共有し、その実現に向けて、1対1で話してフィードバックするという仕組みを現場に投入した。これまで行っていた「年度目標の設定」を「リアルタイムでのミッション設定」に、「中間レビュー」を「リアルタイムでのフィードバック」に変更したのだ。ただし、従来の「年次評価」と「期末フィードバック」は残した。

そうした中、オラクルの担当者と出会い、「Oracle HCM Cloud」の存在を知ったという。「Oracle HCM Cloud」は、人材採用、評価、報酬管理、健康管理、タレントマネジメントなど、人事のライフサイクルに必要な機能を提供している。

戸松氏は、「Oracle HCM Cloud」の利点として、「社員の可視化」と「リアルタイム・ミッション管理」を挙げる。

「Oracle HCM Cloudでは、タレントマネジメントにおいて、社員のパフォーマンスを管理して、状況を可視化することができます。また、部下はいつでもミッションを入力することが可能で、その内容は上司にメールですぐに送信されます」(戸松氏)

ただし、機能面で魅力は感じていたものの、「オラクルは価格が高いのではないか」と、不安を感じていたと話す戸松氏。実際に価格を聞いてみて、「この価格で、これだけの機能が使えるのなら安いと思いました」と語る。

社員の自発性を促すため、人事は黒子に徹せよ

とはいえ、リアルタイムでミッション管理を行うとなると、部下にも上司にもこれまでにはない負荷がかかってくる。新川の社員は新制度の導入に反対しなかったのだろうか。

まず、約50人の課長層に対し、彼らがリアルタイム・ミッション管理について納得するなら導入すると話したところ、全員が「新制度がいい」と言ったそうだ。

続いて、部下層に対しても、20人ずつに分けてすべての社員に対して説明を行った。「上司、部下それぞれの人たちに納得してもらわないと、使ってもらえません。導入の効果を上げるには、納得して自発的に使ってもらうことが大切です」(戸松氏)

先にも述べたが、今回の取り組みにおいては「(社員の)自発性発揮」を重視している。戸松氏は、社員の自発性を高めるため、人事は「黒子に徹する」というスタンスを掲げている。

「従来の人事制度は、社員が主体ではなく、人事が管理しやすい仕組みだったと思います。社員の自発性を高めるには、社長と人事が一体となって、会社の方向性の認識を共有する必要があります。私は人事部の社員に対し、『人事が中途半端な状態を目指せ』と話しています。これは大変なことだと思います」と戸松氏は、新川が目指している人事のスタンスを話す。

こうした経過を経て、新川ではリアルタイム・ミッション管理を導入した。ちなみに、戸松氏自身も上司に当たる経営層とリアルタイムでミッション管理を行っており、「経営層に理解してもらうためにも、これが大切です」と戸松氏はいう。

なお、新たな仕組みとして、部長と社員が面談を行うことも始めている。課長は直接の部下とコミュニケ―ションを持つ機会が多いが、部長は課長の下にいる社員と話す機会は意外と少ないものだ。課長と部下のコミュニケーションを補完することに加え、部長からの「社員ともっと話したい」というニーズに応えるため、部長との面談が制度化されたそうだ。

将来は「ノーレイティング」の仕組み導入を

現在、新川では「Oracle HCM Cloud」を来期から本格稼働するにあたり、さまざまな社員の基礎情報を登録しているところだ。実際に、「Oracle HCM Cloud」を使い出すことで、さまざまな使い方が見えてくることを見込んでおり、「社員それぞれが使いやすい形での運用を考えています」と戸松氏は話す。タレントマネジメントについては、社員の付加価値を高めるために必要なデータについて、人事部で計画しているそうだ。

今のところ「年次評価」「期末フィードバック」は制度として残しているが、将来的にはそれぞれ「ノーレイティング」「リアルタイム・フィードバック」に置き換えることを検討している。

世界ではリアルタイム・ミッション管理が当たり前になりつつあることも踏まえ、「Oracle HCM Cloud」については、「人事システムのスタンダードになってほしい」という。

「私は人事の経験が少ないからこそ、社員の肌感覚がわかっていると思います。社員の肌感覚が溶け込んだ人事制度を作りたい」と語る戸松氏。人材を管理する抜本的に仕組みを変えることで、人材はどのように変化していくのか。同社の取り組みが花開くことを期待したい。