京都大学は、同大らの共同研究グループが、南部沖縄トラフの熱水活動域から採取した試料から単離した細菌が、アミノ酸などの化合物生合成に不可欠なTCA(クエン酸)回路の中でも、最も始原的な形態の回路を有することを発見したことを発表した。
この成果は、京都大学 工学研究科の跡見晴幸教授、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の布浦拓郎主任研究員らと、北海道大学、製品評価技術基盤機構(NITE)との共同研究グループによるもので、2月2日に米国の科学誌「Science」に掲載された。
多くの生物にとって生存に必須の代謝機構であるTCA回路の起源は、生命の共通祖先の誕生、さらには化学進化の時代にまで遡る「最も始原的な基幹代謝のひとつ」と考えられている。TCA回路にはいくつかの形態が存在し、生命誕生前後の始原的なTCA回路の姿については様々な議論がある。
今回、研究グループは、始原的バクテリア系統に属する好熱性水素酸化硫黄還元細菌Thermosulfidibacter takaii(以下、Thermosulfidibacter)が最も始原的な形態のTCA回路を持つことを示した。
この研究における多元的オミクス解析の結果、Thermosulfidibacterが独立栄養または混合栄養条件でも、まったく同じ酵素群を用い、利用できる炭素源に応じて回路の反応方向を柔軟に変化させる、可逆的なTCA回路を保持していることが明らかになった。これまでまったく同じ酵素群を用いたTCA回路で独立栄養と、従属栄養の両方の機能を使い分ける生物は見つかっていなかった。
Thermosulfidibacterで観察された新奇TCA回路は、ダイナミックに変動する環境条件に適応して反応の向きを切り替えるという、最も祖先型のTCA回路が備えていたであろう特性を示していると考えられる。
初期生命の形態は、独立栄養であったのか、あるいは従属栄養であったのかの議論が長らく続い ている。研究グループは、今回示されたこの始原的な新奇TCA回路の特性は、「初期生命が原始地球の生命誕生の場において、利用可能な物質の存在量に応じて、柔軟に代謝を変化させる混合栄養生命として誕生した」可能性を強く示していると説明している。