東京工業大学(東工大)は、核分裂における、原子核の中性子放出と「ちぎれ方」の詳細を明らかにしたと発表した。

同成果は、日本原子力研究開発機構(JAEA)先端基礎研究センターの廣瀬健太郎 研究副主幹および西尾勝久マネージャー、東工大 科学技術創成研究院 先導原子力研究所の千葉敏 教授、近畿大学 大学院総合理工学研究科の田中翔也 大学院生らの共同研究によるもの。詳細は、米国の学術誌「Physical Review Letters」(オンライン版)に掲載された。

核分裂は、ウランのような重い原子核が余分なエネルギーを与えられたときに、変形して2つにちぎれる現象だ。このちぎれ方を観測することで、原子核がどのように変形して核分裂が起こるかを調べることができる。

放射性物質の毒性を低減するためには、高いエネルギーの中性子を原子核にぶつけて起こす核分裂を利用する方法がある。しかしこの場合、原子核はいくつかの中性子を出して別の原子核になった後に、さらに核分裂することがあるため、異なる原子核のちぎれ方が混在し、核分裂がどのように起こるかを調べることができなかった。

  • 核分裂

    異なる原子核のちぎれ方が混在し、核分裂がどのように起こるかを調べることは困難であった (出所:東工大Webサイト)

同研究では、JAEAのタンデム加速器を使って酸素18(18O)ビームをウラン238(238U)標的にあてて、さまざまなエネルギーをもった多種類の原子核をつくり、それらのちぎれ方を観測した。

例えば、40MeV~50MeVのエネルギーをもつ240Uをつくった際に観測されるちぎれ方をプロットする。このようなエネルギーでは、核分裂の前に中性子を吐き出すことがあるため、観測したちぎれ方には、他の原子核のものも含む。中性子を吐き出す確率を計算すると、このエネルギーの240Uは、0個から5個の中性子を吐き出す。つまり240Uだけでなく、235U~239Uのちぎれ方も含まれていることになる。

  • 核分裂

    40eV~50MeVのエネルギーをもった240Uの「ちぎれ方」(●)と理論計算の比較。点線は中性子放出後にできるそれぞれの原子核235U~240U)の「ちぎれ方」であり、これらが図中に示した割合で混じっているため、和をとって実験データと比較する。赤の実践は、この和と、中性子放出後に核分裂が起こる効果を、近畿大学がおこなった理論計算と組み合わせたもの。これによって、実験データを説明することに成功した (出所:東工大Webサイト)

これまでは、中性子を吐き出した後に起こる核分裂が、どのような形でちぎれ方に含まれているかはわからなかった。今回の研究では、中性子放出後に核分裂が起こる効果を、近畿大学がおこなった理論計算と組み合わせることで、実験データを説明することに成功した。また、他のエネルギーをもった原子核のちぎれ方も同様に実験データを再現しており、理論モデルの信頼性が確認できた。

研究グループは、「同成果は、高エネルギーにおける核分裂の理解、そして重い原子核でのまだ分かっていない核分裂現象の解明にもつながるもの。核分裂に対する理解をさらに深めることができれば、核分裂を利用した放射性物質の毒性を低減するための核変換技術への応用も期待できる」とコメントしている。

なおJAEAは、同手法によって、人類が取り扱えるであろう最も重い原子核標的である99番元素アインスタイニウム-254を用いた核分裂研究を始める予定だという。