立教大学は10月13日、バクテリアゲノム複製サイクルの繰り返しを試験管内に再構成することに成功したと発表した。

複製サイクル再構成系(出所:立教大学Webサイト)

同成果は、立教大学理学部の末次正幸 准教授、高田啓 博士研究員(PD)、九州大学の片山勉 教授らによるもの。詳細は英国の学術誌「Nucleic Acids Research」オンライン速報版に掲載された。

バイオテクノロジーの基盤をなすDNA増幅技術として、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)がよく知られている。この技術は人為的な温度サイクルにより比較的短いDNA(遺伝子1個程度)を指数増幅するものだ。一方で細胞は、増殖過程において、温度サイクルによらずともゲノム複製のサイクルを幾度も繰り返し、ゲノムという長大なDNA(大腸菌では約4000の遺伝子)の正確な増幅を達成している。そこで研究チームは、この細胞のもつDNA増幅の仕組みを試験管内に丸ごと再現することに挑戦した。

30年以上前から構築されていた大腸菌環状ゲノムの複製機構の試験管内再構成系では、複製開始配列から両方に複製フォークが進行する。今回の研究では、この系に、さらに複製終結および、複製後DNAの分離反応の融合を検討した。分離反応により、うまく複製後の産物をもとの鋳型と同じ環状単量体DNA分子に戻すことができれば、倍加された環状DNA分子は引き続き次のラウンドの複製サイクルに突入できるのではないかというアイデアだ

その結果、大腸菌由来の25種のタンパク質より構成される反応系を構築し、この反応系において環状DNA分子の指数的な増幅が導かれていることを検出した。これは、期待通り複製サイクルが自律的に繰り返され、環状分子が倍々に増えていることを示すものだという。研究チームは、この系を「複製サイクル再構成系」と名付け、DNA増幅法として示した。

従来の大腸菌を用いた DNAクローニング技術は、大腸菌内へのプラスミド化した環状DNAの導入や、菌の培養、プラスミドDNA抽出など、多くの手間と日数のかかる手法であった。しかし、同反応系によって、数時間の保温のみで長鎖環状DNAを正確に増幅調製することが可能になるという。細胞を使わない反応であるため、細胞に導入可能なDNAサイズの制約はなく、また細胞毒性を有するDNA配列も問題なく増幅できるとしている。

バクテリアの中には、16万塩基対という小さなゲノムをもつものが知られている。今回研究グループが増幅に成功した20万塩基対というサイズは、バクテリアレベルの小さなゲノムであれば、ゲノム丸ごとを試験管内増幅できる技術であるという。

研究チームは同成果について、おそらく原始生命が誕生した頃から継承されてきた遺伝情報の増殖の本質的な部分を試験管内に再現したものであり、今後、自律増殖可能な人工細胞などへとつながることが期待されるとコメントしている。